医療広告ガイドラインとどう付き合うか
医療情報を発信する上で、厚生労働省の定める医療広告ガイドライン(以下、広告ガイドライン)の遵守は大前提となります。その目的は、安易な情報発信による患者の不利益を防ぐためです。
ドクターや事務長とお話ししていると、皆さま、「遵守したい」「遵守しなければならない」という高い意識をお持ちです。特に、2018年の広告ガイドラインの改正で、それまで規制対象から除外されてきた医療機関の自院ホームページも対象になってからは、なおのこと気にされる方が増えています。
しかし、そうした意識の高まりにもかかわらず、多くの医療従事者が広告ガイドラインへの適応に難しさを覚え、どこまで守らなければならないのかという、ある種のジレンマを抱えておられるように見受けます。
広告ガイドラインというのは、毎日向き合っている私たちですら、解釈や判断に迷うことがあるくらい細かい規定だらけです。これをすべてのドクターが同じレベルで理解するには難易度が高く、現実には不可能といってもいいでしょう。

医療広告ガイドラインの主な留意点
医療広告ガイドラインの正式名称は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」といいます。広告ガイドラインの主な禁止事項には、以下のようなものがあります。違反した場合、行政指導が入ることもあるため、注意が必要です。
比較優良表現
他院と比較して優良だという内容は、客観的な事実であったとしても優位性について著しく誤認を与えるおそれがあるため記載ができない。
虚偽表現・誇大表現
患者に不適切な医療を受けさせるおそれがあるため「事実と異なる情報(虚偽表現)」や「事実を不当に誇張し誤認させる記述(誇大表現)」は記載ができない。
キャンペーンや治療の効果保証など品位を損ねる内容
費用の強調、提供する医療とは直接関係ない事項による誘引、ふざけたものなどは記載できない。治療のBefore/After写真など効果に言及する表現もNG。
自由診療の価格明示
自由診療の治療・手術・検査などの医療行為について記載する場合は、自由診療である旨と標準的な費用を併記しなければならない。
「医薬品名・医療機器名」や「未承認の医薬品・医療機器」
医薬品・医療機器の販売製品名や型番、医薬品医療機器等法で未承認の医薬品・医療機器を用いる検査・手術・治療などは記載できない。
標榜科名の表記
広告可能な診療科名は、医療法施行令で細かく指定されている。麻酔科は当該診療にあたるドクターが厚生労働大臣の許可を受けている場合のみ広告可能。
専門外来表記、専門医資格の制限
専門外来は記載できない。またドクターの専門性に関する資格名等は、厚生労働大臣に届出がなされ受理された団体が認定した専門医資格名のみ掲載が可能。指導医・認定医は記載できない。
クチコミ・体験談
治療を受けた患者やその家族などの主観によるものや、客観的な事実であることを証明できない事項については記載ができない。
広告ガイドラインを遵守し、伝えたいことを伝える難しさ
難しいのは診療科目表記、自由診療のPR、保有資格の表記、治療事例や患者の声や体験談など、一見すると患者にとって有益だと思われる表現が、実は広告ガイドライン上で規制されている点です。
具体例を挙げてみましょう。
「産業医として働く世代の健康維持に貢献しています」
この表現はドクターの医療に関するスタンスを説明するのにとてもわかりやすいのですが、広告ガイドラインでは広告可能な表記にあたりません。なぜならば、企業の産業医として従事していることが、専門性を誇示し集患に優位に働くアピールと捉えられるためです。
また、こんな例もあります。ドクターのある取り組みが新聞記事に取り上げられたというケース。この場合、多くのドクターが自院のホームページで紹介したくなるでしょう。
ところが、これも患者の誘引性が高いといった理由で、医療機関のホームページに掲載することはできません。一般の企業なら許されることが医療機関では許されない。これが広告ガイドラインを守る難しさであることだとご理解いただけるのではないでしょうか。
広告ガイドラインを守り抜く上でのジレンマ
広告ガイドラインはその難解さゆえ、別のジレンマに悩まされることにもなります。 それは、「規制されている表現をホームページに載せたままの医療機関もあるじゃないか。当院だけが厳密に守るのは不公平なのでは?」というジレンマです。
しかし、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というわけにはいきません。実際に広告ガイドラインの遵守を徹底するため、厚生労働省は民間事業者に委託して 「医療機関ネットパトロール」というものを実施しています。
委託を受けた事業者は常に医療機関の広告やホームページをチェックし、抵触する表現を見つければ、その医療機関に修正を要請します。ですから抵触する表現をそのままにしているクリニックが指摘を受けるのも時間の問題なのです。
ドクターズ・ファイル編集部にも、「指摘されてしまった。どう対処すればいいか?」というご相談をいただくことがあります。こういったケースでは、広告ガイドラインを熟知したドクターズ・ファイルの「医療広告・品質管理校閲チーム」のスタッフが、指導が入った背景のご説明に加え、広告ガイドラインに抵触せずに伝えたいことを表現する方法をご提案しています。
実際にあったケースで、あるクリニックがすでに問題ないことを確認している表現について、医療機関ネットパトロールから指摘を受けた際、私たちが業務上の知見を持って仲介した結果、指摘自体が取り消されたことがありました。まれな事例ではありますが、広告ガイドライン運用の難しさを象徴する出来事といえます。
餅は餅屋。専門家を頼る選択も
ただでさえ忙しい医療機関が、これだけ運用の難しい広告ガイドラインの遵守を自ら維持していくことは現実的ではなさそうです。そこは信頼できるパートナーに専門的なアドバイスを求めるのが賢明でしょう。
ドクターズ・ファイル編集部はこれまで2万5千件を超えるクリニックや病院の情報を、広告ガイドライン違反に伴う大きなトラブルなどを起こすことなく、しかもドクターが表現したい内容を可能な限り表現してきました。
これを実現するため、私たちはドクターズ・ファイル編集部内に医療広告・品質管理校閲チームを設け、広告ガイドラインを常に研究分析しています。
厚生労働省が医療機関ネットパトロールによって広告ガイドラインに抵触する表現の撲滅をめざそうとする中、それでもまだ抵触する表現は散見されます。そうした状況の中で「ドクターズ・ファイル」の広告ガイドライン遵守の取り組みはメディアからも注目され、新聞に1ページにわたって取り上げられたこともあります。
広告ガイドラインの遵守に不安を抱えているドクターがいらっしゃれば、ドクターズ・ファイル編集部にお声がけいただければ、お役に立てることがあるかと思います。
イラスト/古藤みちよ
<執筆者プロフィール>
牧 綾子(まき・あやこ)
ドクターズ・ファイル初代編集長、頼れるドクター編集長。株式会社リクルートの求人事業部にて10年間、事業・商品・営業の企画業務を担当。その後、株式会社ギミックにて「ドクターズ・ファイル」の立ち上げと『頼れるドクター』の創刊から携わる。開業医だった祖父と80歳を過ぎた今も総合病院で内科医として勤務する父の背中を見ながら、ドクターの医療に懸ける想いを肌で感じて育つ。また、2児の母として子育てを通じ医療情報の必要性を強く信じている。クライアントやユーザーに寄り添いながらメディアづくりをすることを大切にしている。