医療ポータルサイトが台頭してきたのはなぜか《患者のココロをつかむ情報発信》【第2回】

医療ポータルサイトが台頭してきた背景を解説 

患者とのコミュニケーションを上手に取ることで、患者やその家族と信頼関係を築き、満足度を高めたいと考えているクリニックの医師は少なくないのではないでしょうか。

医療情報ポータルサイト医療情報ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」の初代編集長、医療情報誌『頼れるドクター』の編集長として、約20年間、2つのメディアを通じ、医療情報を求める数多くの患者の心理を定性/定量的に分析してきた牧綾子氏が、患者と医師がより良い関係を構築するためのノウハウをわかりやすく解説します。

第2回のテーマは、「医療ポータルサイトが台頭してきたのはなぜか ~パーチェスファネル(消費者の購買行動)と患者心理からひもとく~」です。

※本稿は、牧綾子著『20年のインタビュー・調査からひもとく 患者のココロをつかむ情報発信 ~2024年改訂版~』(株式会社ギミック)の一部を再編集したものです。

「自分で選んだ」納得感の醸成が患者満足度につながる

患者がクリニックを探す際、「自分で選んだ」という納得感があるかないかで診療や診断に対する満足感が変わってきます。ここではあえて医療の世界を特別と考えず、一般の消費行動との比較で患者心理を見ていくことにします。

職場探しや買い物もそうですが、誰かに勧められたからとりあえずとか、時間がないからと勢いで選んだものは、「あれ? ちょっと違うな」と思ったとき他責にしてしまいがちです。逆に自分でじっくり比較検討した選択であれば、少しくらい想定外のことが起きても、それを選んだ理由が自分の中に明確にあるため、自責として処理し満足感を得られます。

納得感は新規患者の不当なクレームを防ぐ

新規の患者に見られるのが、初診で意にそぐわないことがあると「対応が良くなかった」「不快な思いをした」とマイナス評価をするケースです。中には身近な人に話したり、SNSを使って不当に悪評を広めたりするケースも少なくありません。

クリニック側にしてみれば、「たまたま混んでいてお待たせしてしまった」「看護師が病欠で人手が足りなかった」「受付スタッフが新人で不慣れだった」など事情はいくらでもあるでしょう。しかし、それが通用しない可能性があるのが新規患者です。

でも、もしその患者が事前に情報を吟味し、納得した上で来院したとしたらどうでしょう。「きっとたまたまなんだろうな」と解釈し、たった一度でマイナス評価をする可能性は低いはずです。むしろ「人気のあるクリニックだから仕方ない」などとプラスに捉えることも多いでしょう。

つまり、患者が納得のもとで来院してくれることは経営リスクの軽減につながるといえます。そういった意味でも事前に患者を「ファン化」するクリニック情報の提供は必要で、ドクターとしてもはるかに心地良いコミュニケーションで診察に臨めることになると考えます。

満足感の高い既存患者が新たな患者を呼ぶ

では、既存患者はどうでしょう。かかりつけとして通ってくれている患者というのはすでに納得感を醸成しています。また、何度も通院しているクリニックはお気に入りであり自慢のクリニックでもありますから、当然、満足感も高く、身近な人に「どこかにいいクリニックはない?」と聞かれた場合などに自信を持って勧めたいと思っているはずです。

まさに自分が良いと思っている物事は誰かに教えたいという人間の心理です。そのことは近年、誰もが手軽に情報共有や拡散ができるSNSが市民権を得ていることからもおわかりいただけるでしょう。

患者の行動心理が見える「パーチェスファネル」理論

患者がクリニック選びをするときの行動心理を、消費者の購買行動を体系化した「パーチェスファネル(購買の漏斗)」理論(※図1)に当てはめて可視化してみたいと思います。

パーチェスファネルとはマーケティングの考え方の一つです。クリニックを探している患者はまず、広告に注意を引かれ(Attention)、興味を持ち(Interest)、詳細を調べます(Search)。その上でクリニックを選んで来院する(Action)ことになります。さらに自分で選んだクリニックが気に入れば情報を共有する(Share)のです。

駅や電柱の看板広告が主流の時代は広告から得られる情報が少なかったため、検討材料がないまま「Attention」からすぐに「Action」に移らざるを得ず、情報が絞り込めていない状態で受診していたといえます。

「Search」のプロセスで力を発揮するポータルサイト

なぜ医療情報の検索においてポータルサイトが使われているのかという問いに対する答えは、図の「Search」の部分に隠れています。

医療を他の業種と同じように語ることは適切ではないものの、情報を検索ツールで比較検討するという視点で見れば、飲食店の「食べログ」、ホテルの「トリバゴ」、住宅の「SUUMO」、求人の「indeed」といった各種ポータルサイトの事例がわかりやすいのではないでしょうか。

例えば飲食店を探すとき、まずは検索エンジンで「地域×ジャンル」などを入力し、上位表示される「食べログ」のようなポータルサイトで候補を絞り、詳しい情報を知りたければ各店舗のホームページにアクセスするという流れが主流になっています。場合によっては、店舗のホームページを見なくても、「食べログ」の情報だけでお店を決めるケースも少なくないでしょう。患者にとってのクリニック選びも近年、同じ流れにあるといえます。

ただ飲食店と異なり、医療は人の健康や命に直結するものですから、患者はクリニック選びにより慎重になるものです。「ドクターズ・ファイル」の調査(※Q2)でも、クリニックを「非常によく比較検討する」「よく比較検討する」という患者の割合が70%以上にのぼります。

そのため私たちドクターズ・ファイル編集部は、ドクターが得意な治療や大切にしている診療理念、地域への想いなど、日々の多忙な業務の中では伝えきれない、きめ細かなクリニック情報を掲載することでドクターのお役に立ち、なおかつ患者のクリニック選びの一助になる役割を担っているのです。

肝心なのは良質な「Share」の最大化

「うちのクリニックは、ほとんどクチコミで患者が来るから情報発信なんて必要ない」とおっしゃるドクターも多いかと思います。確かにそれは誇らしいことですし、もし私がドクターの立場でもそういうクリニックにしたいと考えることでしょう。

だからといって現状にあぐらをかいていて良いかというと、答えは「NO」。なぜなら、「クチコミ」の概念が大きく変わってきているからです。

これまで集患に貢献していたクチコミは、ママ友がおしゃべりついでに交わす「○○で困っているの。どこかいいクリニックはない?」「その症状なら☆☆医院がお勧めかも」という対面の情報交換で成立していました。

ところが、今やコミュニケーションのほとんどがLINEやインスタグラムをはじめとしたSNSなどオンライン経由になりました。さらに、コロナ禍を経て対面での情報交換はますます減少傾向といえるでしょう。

そうした現状を踏まえると、クリニックの集患は対面によるクチコミだけに頼るのではなく、「Share=共有」されやすいインターネット上での情報発信が重要です。もちろん、「Share=共有」してくれるような「ファン化」された患者が多いに越したことがないのはいうまでもありません。

イラスト/古藤みちよ

<執筆者プロフィール>
牧 綾子(まき・あやこ)
ドクターズ・ファイル初代編集長、頼れるドクター編集長。株式会社リクルートの求人事業部にて10年間、事業・商品・営業の企画業務を担当。その後、株式会社ギミックにて「ドクターズ・ファイル」の立ち上げと『頼れるドクター』の創刊から携わる。開業医だった祖父と80歳を過ぎた今も総合病院で内科医として勤務する父の背中を見ながら、ドクターの医療に懸ける想いを肌で感じて育つ。また、2児の母として子育てを通じ医療情報の必要性を強く信じている。クライアントやユーザーに寄り添いながらメディアづくりをすることを大切にしている。

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