患者の情報入手の変遷と選択行動とは?《患者のココロをつかむ情報発信》【第1回】

患者の情報入手の変遷と選択行動

患者とのコミュニケーションを上手に取ることで、患者やその家族と信頼関係を築き、満足度を高めたいと考えているクリニックの医師は少なくないのではないでしょうか。

医療情報ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」の初代編集長、医療情報誌『頼れるドクター』の編集長として、約20年間、2つのメディアを通じ、医療情報を求める数多くの患者の心理を定性/定量的に分析してきた牧綾子氏が、患者と医師がより良い関係を構築するためのノウハウをわかりやすく解説します。

第1回のテーマは、「患者の情報入手の変遷と選択行動」です。

※本稿は、牧綾子著『20年のインタビュー・調査からひもとく 患者のココロをつかむ情報発信 ~2024年改訂版~』(株式会社ギミック)の一部を再編集したものです。

はじめに

医療情報を扱うポータルサイトと書籍の編集者として、クリニックや病院のドクターをはじめ、医師会、行政といった医療を支える方々に取材を重ね、医療に懸ける熱い想いにふれ続けて約20年がたとうとしています。

その間、幅広い世代の患者に対するインタビューや読者アンケート、また、毎月数百件寄せられる医療機関への「感謝の声」などを通して多くの患者の声にも接し、そのニーズを分析してきました。

そこで感じたのは「この病や症状を何とかして良くしたい」「健康でありたい、あってほしい」というドクターと患者の願いは普遍的に共通だということ。

ところが、コミュニケーション不足によって双方の信頼関係が崩れ、治療に向かう互いのベクトルがそろわなくなってしまうケースをしばしば見聞きしてきました。

だからこそ私は、医療情報を扱う者としても、一人の患者の立場からも、医療現場で起こるミスマッチを可能な限りなくしていきたいと強く思い、これまで医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」と特別編集書籍『頼れるドクター』という2つのメディアを通じ、ドクターと患者のココロとココロをつなげるお手伝いをすることを使命としてきました。

本コラムでは、この時代に欠かせない情報発信の観点から、患者のココロをつかむヒントについて書かせていただきました。ドクターが抱える課題も、患者の困り事も、長年それぞれに向き合ってきた私たちだからこそ問題解決のお役に立てると信じています。これまで積み上げてきたノウハウがドクターと患者のより良い関係を育み、より最適な医療の選択と安心の地域医療の提供につながれば幸いです。

患者の情報入手の変遷と選択行動

医療業界における情報入手ツールの多様化

患者が医療情報を入手する方法はこの数年で明らかに変わってきました。手元のスマートフォンで調べる生活が当たり前になり、「患者がそれぞれの選択基準で自ら医療機関を選ぶ時代」に突入したのです。それに伴い医療機関やドクターに対する医療サービスの期待値はどんどん上がり、その傾向は今後ますます加速していくものと思われます。

振り返れば、これまでも情報入手の方法は時代とともに変わってきました。例えば、かつてクリニック情報といえば駅看板や電柱広告が主流でしたが、新聞の折り込みチラシやラジオなど比較的身近なメディアが活用されるようになり、やがてインターネットが発達すると今度はホームページやポータルサイトの需要が高まりました。そして現代ではSNSや動画広告が台頭しています。

ちなみに「ドクターズ・ファイル」が立ち上がり、私がクリニック取材を始めた20 年前はどうだったかといいますと、ちょうどホームページを開設するクリニックが増え始めた頃。ただし今とは違って、当時ホームページに載せるのは診療科、診療時間、住所、電話番号など基本情報がほとんどで、ドクターの診療理念や得意な治療の紹介、最新のお知らせなどはあまりなかったと記憶しています。また、ページデザインにしても手作り感満載で、クリニックのブランディングイメージを考慮しているとは言い難いものでした。

その一方で、患者が頼る情報として今も昔も変わらないのが「クチコミ」です。かつては対面・口頭だったものがオンラインの掲示板などへと変わり、今ではSNSに移行しています。

情報ツールは組み合わせて使う時代

実際、私たちが2020年と2024年に20~50代の4000人を対象に行った「患者のクリニック選びに関するインターネット調査」(※Q1)でも、直近1年でクリニックを選ぶ際に活用した情報源として、SNSは6.8%から12.8%へと大幅に増えていることがわかります。

では今の時代、SNSによる情報発信に力を入れていけばそれでいいのでしょうか? 一概にそうとも言いきれません。なぜなら、患者が活用する情報ツールは非常に多様化しており、それらを目にするタイミングもさまざま、かつ連動しているからです。

調査結果からもわかるように、一番多く活用されていたのはやはりインターネットで、ホームページかポータルサイトのどちらかまたは両方を情報源としており、その利用率は驚くことに100%に上ります。もはやクリニックのホームページや医療ポータルサイトを調べて受診することが大前提になっているといえます。ただそこへの導線として、SNSや雑誌などの紙媒体を活用しているケースも多くありますし、その逆もあるでしょう。紙メディアが4年前に比べて伸長しているのもその表れで、膨大な情報があふれる今だからこそ、編集者などの第三者によってセグメントされた情報を参考にしたくなるのかもしれません。

つまり、それぞれの情報ツールは相互に連動しており、どれか一つに情報を出していれば患者に伝わる時代ではないということです。

ドクターズ・ファイル編集部がポータルサイトの運営のみならず、地域別の書籍シリーズ『頼れるドクター』を発刊し、各クリニックの紹介パンフレットやホームページ制作まで手がけるとともに、動画広告の開始も視野に入れる背景にはそうした理由があります。

また、「ドクターズ・ファイル」そのものの認知度を高めるために、常時コンテンツの強化を行うことはもちろん、SEO対策やリスティング広告に加え、駅ポスターや電車内中吊り広告、サイネージ広告、新聞広告、折り込みチラシ、他雑誌とのタイアップ、さらにはX(旧Twitter)、インスタグラムといったSNSやYouTubeでの発信など、さまざまな手法を取っているのも「患者が情報入手する手段は多様化し、相互に連動している」ことを前提にしているからです。

ただそうはいっても、実際にやってみるとそれらの情報発信にかかる労力は相当なものです。SNS一つとっても頻繁に更新する必要があり、多忙なドクターの負担になるのもわかります。

さらに、私たちが全国のクリニックとつながっていく中、ホームページを持っていないクリニックはまだまだたくさんあって、その理由のほとんどは開設にかかるコストや制作・運用の手間だとわかりました。中には主義として持たないドクターもいらっしゃいますが、よくよく話を伺うと、自院のことを自らPRするのが恥ずかしいという理由なこともあります。

患者ニーズに応えるインターネットでの情報発信

インターネット上で自院の情報発信をためらうドクターがいる一方、多くの患者がドクターやクリニックの情報を求めているという事実があります。だとすればPRではなく、患者のニーズに応えるために情報を提供すると考えてみてはいかがでしょう?

また、情報発信にかかる手間やホームページの制作コストが問題なのであれば、それらを一手に引き受けるサービスを利用する方法があります。

「ドクターズ・ファイル」の原点と存在意義はまさにそこにあります。

横浜の住宅街・田園都市エリアの医療ポータルサイトとして2007年にサービスを開始した「ドクターズ・ファイル」は、地域を越えた患者からのニーズが年々高まり、クリニックのドクターからも自院のホームページの代わりとして、または併用する形でご活用いただけるようになりました。

一地域で始まったポータルサイトが、なぜ多くのクリニックや患者から必要とされるようになったのか。次回はその背景についてお話しします。

イラスト/古藤みちよ

<執筆者プロフィール>
牧 綾子(まき・あやこ)
ドクターズ・ファイル初代編集長、頼れるドクター編集長。株式会社リクルートの求人事業部にて10年間、事業・商品・営業の企画業務を担当。その後、株式会社ギミックにて「ドクターズ・ファイル」の立ち上げと『頼れるドクター』の創刊から携わる。開業医だった祖父と80歳を過ぎた今も総合病院で内科医として勤務する父の背中を見ながら、ドクターの医療に懸ける想いを肌で感じて育つ。また、2児の母として子育てを通じ医療情報の必要性を強く信じている。クライアントやユーザーに寄り添いながらメディアづくりをすることを大切にしている。

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