クリニック選びで患者が求める具体的な情報とは?
前回まで、患者は「ポータルサイトを含むインターネットをクリニック選びに活用している」「オンライン上のクチコミや客観的な情報を重視している」「ドクターやクリニックの情報発信を求めている」という話をしてきました。では、クリニック選びをする患者が具体的に求める情報とはどのようなものなのでしょうか。
「ドクターズ・ファイル」の調査(※Q7)によると、患者が重視するポイントは4年前と変わりません。まずは「診療日・時間」「立地」など、物理的に通えるかの条件面。そして、それとほぼ同程度の70%近い支持を集めたのが、ドクターの人柄や診療方針・得意な治療など「先生に関する情報」です。
つまり患者は、「いつ・どこで」診てもらえるかと同じくらい、「誰に」診てもらえるのかも重視しており、それが受診時の不安を払拭する鍵になるということを示しています。
また、4位に挙がった「他の患者からの評価」はいわゆるクチコミ情報のことでしょう。クチコミの大切さや、悪いクチコミに対抗する客観的な情報発信の重要性は「ネット上のクチコミによるリスクからクリニックを守るために《患者のココロをつかむ情報発信》【第3回】」で述べたとおりです。
もう一つ注目したいのが、6位から8位までの「診察までの待ち時間・混雑状況」「スタッフに関する情報」「予約システムの有無」が4年前より大きく伸びている点です。
予約システムの導入が進んだことは、コロナ禍がもたらした大きな変化でしょう。「ドクターズ・ファイル」では以前から予約システムのサービスも提供するなど、患者のニーズに応える商品企画に取り組んでいます。ドクターズ・ファイル編集部が予約システムに関するウェビナーを行うと、毎回たくさんの参加者がいらっしゃいます。ドクターの関心の高さを実感する一方で、「導入時にスタッフへどう説明しようか」というご相談も実はよくお受けします。
ただ、システム導入により、アナログで予約をやり繰りしていたスタッフの負担が減るなどメリットは少なくありません。患者の通院パターンといったデータ分析にも生かせますし、何より患者の要望に対応するためにも、予約システムの導入は検討いただく価値があると考えています。
患者の関心を集める「ドクターの得意な検査・治療」
続いて、「ドクターに関する情報で重視するポイント」について掘り下げてみましょう。
調査結果(※Q8)によると、
1位 得意とする検査・治療内容
2位 診療ポリシーや治療方針
3位 説明の仕方などコミュニケーションの取り方
となりました。先ほどのQ7と同じく、4年前と重視する順位は変わりません。
1位の「ドクターが得意とする検査・治療内容を知りたい」という意見は、私たちが行う患者のグループインタビューでも必ず挙がります。例えば、「内科・小児科・アレルギー科」と標榜していても、どんな治療にどれだけ精通しているのか、どこまで対応してもらえるのかがわからず困るという声です。
こうしたニーズを踏まえ、「ドクターズ・ファイル」では「検査・治療レポート」「トピックス」といったページを設け、ドクターが得意な治療や、予防・啓発の一環として受けるべき検査などを取材し、患者にわかりやすく伝えています。アンケート結果からもわかるとおり、この記事の閲覧率が高いのはいうまでもありません。
意外と難しい診療ポリシーの伝え方
また、Q8で2位の「診療ポリシー・治療方針」や3位の「患者とのコミュニケーションの取り方」については、言葉で伝える難しさを感じるドクターが少なくないようです。
ドクターとお話しさせていただくと、「日々の業務に忙殺されてゆっくり考える暇がない」「開業当時は熱く語っていたけれど、最近はじっくり考えなくなった」とおっしゃる方も多く、それは無理もないことだと私もお察しします。
特に患者とのコミュニケーションについては、あまりにも日常的なことのため意識しておらず、患者の要望にどう応えればいいか悩むこともあるでしょう。しかし、私たちがじっくり1時間ほどかけて丁寧にインタビューをしていくと、漠然としていた思いや考えが次々に言語化され、ちゃんと答えにたどり着かれるから不思議なものです。
開業から時間がたつにつれて患者が増えていくと、一人ひとりに丁寧に説明するのが難しいこともあるでしょう。だからこそ、編集者やライターといった「第三者」による情報発信が非常に重要です。そのあたりは次の第5回で詳しくお伝えします。
「診断が的確か」を伝えるのは最も難しい
Q8の「先生に関する情報」で重視するポイントで、4年前から大きく数字を伸ばしたのが4位の「診断が的確」です。これは、来院前の患者に伝える情報として最も難しいものでしょう。それゆえ、クチコミから情報を得る患者が多いわけですが、ママ友同士の話やSNSの情報から本当に診断の的確性がわかるわけではありません。
実は患者自身もそのことに気づき始めています。特に個人による情報は信ぴょう性や公正性に欠けるのではないかという疑問から、参考程度にとどめる人が増えているようです。
ではどうすれば、診断が的確かどうかを伝えることができるのでしょうか。方法の一つとしては、「丁寧な診察を心がけている」「患者の話を親身になって聞く」といった「診療の姿勢=スタンス」をしっかり伝えることです。なぜなら、それが患者の安心感と期待値の醸成につながるからです。ドクターを信頼する気持ちは、そのまま受けた診断への信頼感と結びつくでしょう。
また、情報発信すること自体が、「患者に説明責任を果たしたい」という意思表示にもなるはずです。「話がわかりにくかった」「寄り添ってもらえなかった」というマイナスの感情によって、的確な診断という事実が捻じ曲げられてしまう……。そんなことが起きないようにするためにも、ドクターのスタンスを伝えることはとても大切です。そして、伝える上ではこれまで述べたとおり、第三者からの情報発信を通じて患者の不信感を取り除く必要があると思います。
患者の「知りたい」に応える情報を発信していくのは、できそうで難しいもの。自分のこととなると、ますます難易度が上がるのが厄介なところかもしれません。
ドクターの写真は患者の安心材料になる
ドクター情報で患者が重視するポイントの第5位が「見た目の雰囲気や表情」です。4年前と比べても増えています。これを伝えるのが写真の役目です。できるだけ自然な姿が一番でしょう。なぜなら、写真館で撮るような目線ありの写真は堅苦しく見え、患者が距離を感じることがあるためです。
親しみが感じられる温かい笑顔やほがらかな表情、地域医療への想いを語る真剣な表情など、数パターンの写真があればドクターの人柄が伝わりやすく、クリニック選びをする患者の安心材料になります。
ただ、これらの写真は自分では撮れませんし、家族やスタッフに撮影してもらうのも気恥ずかしいものです。
そこで「ドクターズ・ファイル」では、プロのカメラマンが取材撮影に出向き、身内ほどの気恥ずかしさを感じさせず、人柄が伝わるような表情を引き出します。プロ仕様の一眼レフでストロボをたいて撮影した写真には、ドクターの生き生きとした表情と魅力が表現されていて、出来栄えを評価いただくことが非常に多いと感じます。
一方で、「目立ちたくないので顔写真を載せずに掲載できないか」というドクターの声も時折頂くことがあります。ただ、これもまずは患者ファーストの視座に立ち、一度「知りたい」に応えてみようと思ってもらい、掲載してその感触を味わってからご判断いただくことをお勧めしたいと思います。
「顔が見える」は、内側が見えないドアを開く患者に勇気を与えることができるのです。
患者はクリニックの設備や施設環境についても知りたい!
先に述べた患者のクリニック選びに関する調査結果(※Q7)に戻りましょう。
この調査結果によると、クリニック選びで重要なポイントの5位は、「施設や設備の状態(新しさ・清潔さなど)」です。つまりクリニックの設備・環境においても、外観から見えない不安を払拭するために事前の情報提供が大切ということになります。
こちらもドクターの雰囲気と同様に、写真であればうまく伝わるはずです。待合室の広さ、キッズスペースの様子、導入されている検査機器など、文字で伝えるよりはるかにわかりやすいでしょう。
また、7位の「スタッフに関する情報」についても、看護師や受付スタッフの雰囲気を伝えるには写真が有用です。
そのため、ドクターズ・ファイルでは可能な限り院内写真を撮影する方針を取っています。待合室・診察室はもちろん、検査室・隔離室・キッズスペース、バリアフリーなどの特徴があればトイレまで。スタッフの集合写真では、ドクターと同じく自然な笑顔を引き出します。
それらの写真に説明コメントをつけて医院紹介ページに掲載すると、閲覧率・タップ率は非常に高くなります。院内の様子は患者にとって、とても重要な情報なのだと思います。
これまで述べたように私たちは、患者がクリニック選択において重視する情報を、医療広告ガイドラインなどのルールに則って最大限提供していくことが、患者の安心と信頼の第一歩になるのではないかと考えています。
私自身も編集者という立場からだけではなく、子育てを通じて医療機関にお世話になることの多い一人の家庭人として、多くの家族と関わる暮らしのコミュニティーの一員として、情報の重要性を痛切に感じている一般の声を伝え続けていきたいと思っています。
イラスト/古藤みちよ
<執筆者プロフィール>
牧 綾子(まき・あやこ)
ドクターズ・ファイル初代編集長、頼れるドクター編集長。株式会社リクルートの求人事業部にて10年間、事業・商品・営業の企画業務を担当。その後、株式会社ギミックにて「ドクターズ・ファイル」の立ち上げと『頼れるドクター』の創刊から携わる。開業医だった祖父と80歳を過ぎた今も総合病院で内科医として勤務する父の背中を見ながら、ドクターの医療に懸ける想いを肌で感じて育つ。また、2児の母として子育てを通じ医療情報の必要性を強く信じている。クライアントやユーザーに寄り添いながらメディアづくりをすることを大切にしている。