知識があれば迷いなし!人事評価軸の考え方《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第3回】

人事評価軸

患者が医療機関を選ぶ上で、ポイントの一つとなるのがそこで働くスタッフの存在。親切丁寧な対応や優しい笑顔、寄り添う姿勢は患者にとって大きな支えとなります。

そんなクリニックの顔ともいえるスタッフが高いモチベーションで働けるよう、近年、医療機関でも注目を集めているのが「人事評価制度」。高齢化が加速する日本では医療ニーズが高まる一方で、医療現場は慢性的な人手不足に陥っており、今後、ますます人材確保が難しい時代になることが予想されています。人事評価制度は上手に活用することで、スタッフの成長や定着率の向上が期待でき、生産性や業績アップといった経営改善にもつながります。すでに興味・関心を寄せているドクターも多いのではないでしょうか。

そこで、未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、連載「人事評価7つの基本のキ」を通じて、人事評価制度の導入に際して押さえておきたいポイントを、全7回にわたって詳しく解説します。第3回は「人事評価軸の考え方」を取り上げます。

人事評価の骨格=評価軸。重要ファクターだからこそ、設定に悩む医療機関も

「まず知っておきたい人事評価の導入フロー《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第2回】」では、人事評価の導入フローを解説しました。全体像が把握できたら、次にすべきは「人事評価軸」の設定です。評価軸とは、従業員一人ひとりを公正に評価するために雇用側が設ける基準で、これを明確に言語化することが適切な人事評価につながります。人事評価における屋台骨ともいえる重要な要素です。

しかしながら、大切が故に、そこでつまずいてしまう実態もあるようです。 医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が全国の医科・歯科クリニックを対象に行った「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」でも、人事評価を行う上で難しさや大変さを「とても感じる」「やや感じる」と回答したクリニックが約8割。その理由をクリニックに尋ねたところ、「労力や時間」(59.5%)に続き、「評価基準の設定」(51.4%)に難しさを感じているという結果が出ています。

人事評価の骨格

また、人事評価制度を「導入していない」と回答したクリニックの過半数からは、その理由として「そもそもどのような評価軸を設けるべきかわからないため」(55.6%)が挙げられました。

人事評価制度

評価軸の基本的な考え方さえ知っておけば、スムーズな人事評価が可能に

人事評価は、基本的な評価軸の考え方を理解していれば、身構えることはありません。では、人事評価をスムーズに行うためには、どのように評価軸を設定すれば良いのでしょうか。

まずは、評価軸を明確にすることです。実は人事評価制度を導入した際、スタッフから最も不満の声として挙がりやすいのが、評価基準の不明確さです。評価軸が不明確だと、評価者は感覚的な判断をしてしまいやすくなり、評価に主観が入ってしまうことも。それによって、評価されるスタッフは、公平性や納得性を感じられなくなる→不満を感じる→仕事へのモチベーションが下がる、という悪循環が生じやすくなります

人事評価の大きなメリットは、人材育成や経営改善を実現できることにあります。評価軸を設定するため知識を得て、上手に活用すれば、スムーズな人事評価が実現し、クリニックの成長・発展へとつながっていきます。

評価する上で必ず押さえておきたい、基本となる3つの評価基準

人事評価で一般的に活用されているのが、「能力評価」「情意評価」「業績評価」の3つの「評価基準」です。

■3つの評価基準の種類

1) 能力評価:個々の知識量・スキル度合いで評価する
2) 情意評価:仕事への意欲・姿勢を見極める
3) 業績評価:業績への貢献度を測る

多くの企業・団体では、これら3つの基準をベースに、それぞれ複数の「評価項目」を設定し、昇給や賞与などの処遇に反映していく人事評価を行っています。3つをどのようなバランスにするかは、企業や業種などによってさまざまです。

1)能力評価

業務を行う上でのスキルをベースに評価する方法です。一人ひとりが持っている業務への知識や能力の度合いにフォーカスすることで、長期的な人材育成・能力開発、意識の向上をめざします。将来への投資的な側面があることも特徴の一つです。

2)情意評価

スタッフの勤務態度や仕事への意欲・姿勢を評価する方法です。周りへの気遣いや思いやりといった数値化しづらい側面を評価でき、人材育成に効果があるとされています。その分、感情や主観が入りやすいという面もあります。

3)業績評価

業務を遂行した結果・実績にフォーカスして評価する方法です。数字で管理しやすく、客観的に見やすいという特徴があります。成果が出づらい業務内容の場合は、それに至るプロセスや貢献度を評価します。

必要なのは、クリニックの方向性に沿った評価軸。評価項目と評価内容の例を紹介

評価軸は「能力評価」「情意評価」「業績評価」の3つの評価基準と照合しながら、評価項目を細分化し「評価内容」を設定していきます。求められる業務における成果は職種ごとに違うため、看護師、歯科衛生士、受付スタッフなど、それぞれに最適な基準を設ける必要があります。ここで大事なのが、「まず知っておきたい人事評価の導入フロー《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第2回】」でもふれた、人事評価を導入する理由や、自院が現在抱える課題、理念・ビジョン・方向性とマッチさせることです。

そしてその評価軸は、スタッフ全員に理解してもらうことが必要です。周知を徹底しておかないと、どこに目標を置けば良いのかスタッフは戸惑ってしまいます。

評価する側とされる側、双方が認識できるよう、評価項目と評価内容はスタッフ全員がイメージしやすく、わかりやすい言葉で表現することがポイントです。そうすることで、職場への理解が深まり、人事評価の効果が得られやすくなるでしょう。

以下は、クリニックにおける評価軸の一例です。

クリニック

職種や経験値を考慮し、公平性のある評価項目とレベルを設定

実際、どのように評価軸を設定すれば良いのでしょうか。

例えばまず、前述した「評価項目と評価内容」の図表を例にし、評価基準の「能力評価」を大分類とした場合、「企画力」「実行力」「改善力」など、能力を評価する「項目」を中分類として設定。実際評価する「内容」として小分類を設け、「企画力」であれば、「職務遂行にあたり、効果的な計画や計画を立案しているか」という観点で、「患者・クリニックのために、慣習にとらわれず創意工夫を行っている」「自分の得た知識を自ら院内に発信し、クリニック全体の知識向上を図っている」など、評価される人が理解・実行しやすいよう具体的に示します。

評価項目の数は、クリニックの方向性に合わせて設定します。「能力評価」「情意評価」「業績評価」のそれぞれの基準に対し、項目数が均等にならなくても大丈夫です。 そして、評価者の主観が入らないよう、公正な評価をするための物差しとして、項目ごとに評価レベルを設定します。一般的には、達成度に合わせて5〜10段階で設定されることが多いようです。同じ職種でも全員同じレベルにするのではなく、立場によって業務内容や求められる成果は違うため、役職や経験値、雇用形態に合わせて設定すると、より公正な評価ができるようになるでしょう

【まとめ】

今回は、「人事評価軸の考え方」について紹介しました。

ポイントは、「能力評価」「情意評価」「業績評価」の3つの評価基準をベースとし、職種や役職ごとに、クリニックの理念・ビジョン・方向性にマッチした内容でバランス良く構成することです。クリニック全体に浸透させるためには、スタッフにわかりやすい言葉で理解を得ることも心がけましょう。

次回のテーマは、評価者が身につけておきたい「評価に必要なスキル」です。

※ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。

<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

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