人事評価者に必要なスキル《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第4回】

人事評価者

患者が医療機関を選ぶ上で、ポイントの一つとなるのがそこで働くスタッフの存在。親切丁寧な対応や優しい笑顔、寄り添う姿勢は患者にとって大きな支えとなります。

そんなクリニックの顔ともいえるスタッフが高いモチベーションで働けるよう、近年、医療機関でも注目を集めているのが「人事評価制度」。高齢化が加速する日本では医療ニーズが高まる一方で、医療現場は慢性的な人手不足に陥っており、今後、ますます人材確保が難しい時代になることが予想されています。人事評価制度は上手に活用することで、スタッフの成長や定着率の向上が期待でき、生産性や業績アップといった経営改善にもつながります。すでに興味・関心を寄せているドクターも多いのではないでしょうか。

そこで、未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、連載「人事評価7つの基本のキ」を通じて、人事評価制度の導入に際して押さえておきたいポイントを、全7回にわたって詳しく解説します。

第4回は「評価者に必要な5つのスキル」を取り上げます。

運用開始前には必ずスタッフ全員に説明し、理解を得る

人事評価の屋台骨ともいうべき重要な「人事評価軸」。「知識があれば迷いなし!人事評価軸の考え方《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第3回】」では、その設計の仕方について解説しました。評価軸が定まることで、評価者は主観によることなく​公平で客観的​な評価がしやすくなり、スタッフの満足度も上がります。

評価軸が定まったらいよいよ運用スタートですが、その前に必ず行っておきたいのがスタッフへの周知です。事前に経営側が人事評価を導入する目的と方法を丁寧に説明し、スタッフ一人ひとりに理解・納得してもらいましょう。双方の目線合わせがされないまま導入してしまうと、評価基準が不明確だとしてスタッフが不満を抱いたり、目標が曖昧なため成長につながらなかったりなどの逆効果を生むこともあるので、注意したいところです。

評価者は院長が多数。評価スキルを身につけることが、スタッフ満足度に影響

スタッフにしっかり説明し、十分な理解を得られたら、いよいよ人事評価の運用開始です。

「まず知っておきたい人事評価の導入フロー《クリニック向け!人事評価7つの基本のキ》【第2回】」でも解説しましたが、人事評価導入後の一般的な運用フローはこのようになっています。

評価者

そして、人事評価では誰が評価をするのかも重要です。 医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が全国の開業医を対象に行った「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」(※)によると、評価者は「院長」が最も多く、次に「理事長」、「チームリーダー」と続きました。クリニックによっては、より客観性を高めるため、現場に近い上司なども加わり、複数名で評価を行うケースもあるようです。

理事長

評価者は、業績や目標に対するスタッフの自己評価を踏まえ、明確な評価基準のもと、公平な視点で評価することが求められます。さらに、スタッフと一緒に目標を設定するほか、フィードバック面談や中間面談を通じて、良い部分をさらに伸ばし、見直しが必要な部分は今後の取り組み方を指導するなど、スタッフのモチベーション向上や成長につなげることも評価者の大切な役割といえます。

そこで求められるのが、評価者の人事評価スキルです。これを持ち合わせていないと、評価軸にずれが生じて整合性が取れなくなったり、評価結果に不公平感が生まれたりして、スタッフに不満が生じてしまいます。評価には責任が伴いますので、評価者は常にスタッフから信頼を獲得できる評価を行うように、スキルアップに努めましょう。

スタッフの満足度を高める、評価者に必要な5つのスキル

そこで、人事評価をする上で、評価者が身につけておきたい主なスキルを5つ紹介します。

【評価者に必要なスキル】

(1)適切な「目標設定力」

まず、目標設定面談では、経営方針や事業計画といったクリニックのベクトルをしっかり設定した上で、目的達成のためにどう行動すべきか、院長などの評価者とスタッフの双方が納得できる目標を考えましょう。その際に大切なのは、スタッフ自身が納得しているかどうか、そして、実現可能な目標かどうかです。難易度が高すぎると現実感を持てずにやる気が下がり、逆に低すぎるとモチベーションが上がらないといったデメリットが生じる可能性もあるので、注意しましょう。

(2)目標達成への「マネジメント力」 

目標を設定した後はスタッフ任せにするのではなく、達成に向けたフォローを行っていきます。その一環として実施したいのが、進捗状況を確認・把握する中間面談です。もしスタッフが行き詰まりを感じているようならアドバイスやサポートを行い、必要に応じて目標を修正しましょう。院長自ら直接サポートすることで、「達成に向けて応援してくれている」とスタッフ側もモチベーションが上がりやすくなります。

(3)公平な「評価力」

評価の透明性を維持するためにも、明確な評価基準のもとで一人ひとりを公平に評価することがスタッフの納得度を高めます。評価者の先入観や偏見、気分などによって過大な評価、過小な評価に陥らないよう注意し、あくまでも中立な立場で評価を行うことが重要です。より客観性を高めるために、評価者を院長一人だけではなく、スタッフに近い立場にいる上司などを加えた複数人にするのも良いでしょう。

(4)信頼を得る「評価面談力」

目標の設定期間を終えたらフィードバック面談を実施し、客観的な結果や達成度をもとに評価します。ここで大切なのが、まずはスタッフからの自己評価を聞くことです。先に評価者が評価結果を伝えてしまうと、スタッフはその内容に影響され、本音で話しづらくなります。スタッフの話に耳を傾けた上で、こちらから評価に至った具体的な根拠・理由などを伝えましょう。そして評価が低い場合には先にポジティブな話をしたり、未達の場合には来期に向けての改善点を一緒に考えたりと、寄り添う姿勢が必要です。

(5)「評価エラー理解力」

「評価エラー」とは、評価者が偏見や先入観、感情などに影響されて、無意識に公平な視点を見失い、偏った人事評価をしてしまうこと。人事評価は人間が行うため、どうしてもこのような事象が起こりかねません。それを回避するには、評価エラーに関する知識を身につけることが重要です。あらかじめ知っておくことで、評価をする際にバイアスがかかっていないかどうかに気づけるようになります。

【まとめ】

今回は、「評価者に必要な5つのスキル」について紹介しました。

人事評価はスタッフの給与や賞与などの報酬や昇格などを決定する以外に、人材の育成や、クリニック理念の理解を促すことなどにも大きく役立ちます。スタッフにとって仕事のモチベーションに直結しやすいため、納得してもらえるよう、評価者は公平に評価することが最も重要です。この原点を忘れることなく、評価する側が評価スキルを磨いていくことが、人事評価の成功へとつながります。そして、評価者だけでなく、評価される側のスタッフにも人事評価の目的や意義をしっかり理解してもらい、双方の目線合わせを大事にしていきましょう。

次回のテーマは、経営側が前もって知っておきたい「人事評価の注意点」です。

※ドクターズ・ファイルによる「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。

<執筆者プロフィール>
齋藤 由希(さいとう・ゆき)
ライター。DTP関連会社での雑誌制作・進行管理業務、アルバイト情報誌編集部での編集・執筆業務を経て、フリーランスのライター・エディターとして独立。著名人のインタビュー記事をはじめ、芸能・料理・健康などさまざまなジャンルの記事執筆や広告のコピーライティングなどに従事。ヨガ講師としても活動中。

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