ペイハラとは?
ペイハラ対策を考える上で、まず押さえておきたいのが「どのような行為がペイハラにあたるのか」という基本的な考え方です。医療現場では患者対応との線引きが難しいケースも少なくありません。
本章では、ペイハラの定義やカスタマーハラスメントとの違い、医療機関で対策が求められる背景について解説します。
ペイハラの定義
ペイハラとは、患者やその家族による暴言、威圧的な言動、過度な要求、長時間のクレームなど、医療従事者の就業環境を害する迷惑行為を指します。
■ペイハラに該当する主な行為の例
・ 暴言や人格否定
・ 威圧的・脅迫的な言動
・ 土下座や謝罪の強要
・ 過度な要求
・ 執拗なクレーム
・ 長時間の拘束
・ 待ち伏せやつきまとい行為
・ SNS・口コミでの誹謗中傷
カスタマーハラスメントとの違い
カスタマーハラスメントが顧客全般から事業者への迷惑行為を指すのに対し、ペイハラはそのなかでも医療機関における患者やその家族からの迷惑行為を指します。
「医療現場では患者の不安や病状が背景にあるケースもあり、対応にはより慎重な判断が求められます」と松本氏は指摘します。
医療現場で対策が求められる背景
近年は口コミサイトやSNSの普及により、利用者が自身の意見や不満を発信しやすくなっています。また、インターネットを通じて患者が医療情報を得られるようになり、医療機関や医療従事者に求める対応も多様化しています。
「患者さんやご家族は病気やけが、治療への不安などを抱えた状態で医療機関を利用するため、感情的な言動や過度な要求につながるケースもあります」と松本氏。
こうした背景から、ペイハラへの組織的な対策の重要性が高まっています。
クリニックで起こりやすいペイハラ事例
適切なペイハラ対策を進めるためには、まず現場で起こりやすい事例を把握することが重要です。松本氏によると、ペイハラは身体的暴力のように明らかなケースだけでなく、長時間のクレーム対応や過度な要求、SNSを利用した嫌がらせなど、判断に迷う形で現れることも少なくないといいます。
ここでは、クリニックで問題になりやすい代表的な事例と、対応時に押さえておきたいポイントを紹介します。
【ペイハラ事例1】暴言や過度なクレーム
大声で怒鳴ったり、人格を否定したりする言動や、長時間にわたる執拗なクレームは、代表的なペイハラの一例です。
・大声で怒鳴る
・スタッフや医師を侮辱する
・他の患者の前で人格を否定する
・同じ内容の苦情を繰り返し訴える
・土下座や謝罪を執拗に求める
◆医療機関が注意したいポイント
暴言や人格否定だけでなく、同じ内容の苦情や要求を繰り返すこともペイハラの一種です。「患者対応だから仕方がない」と考えてしまいがちですが、丁寧に説明を重ねても執拗に対応を求められる場合は、正当な相談や要望の範囲を超えている可能性があります。
【ペイハラ事例2】身体的暴力
医療従事者に対する身体的な攻撃や威嚇行為も、重大なペイハラに該当します。
・スタッフを押す、叩く
・物を投げつける
・診察室や受付で机を叩く
・詰め寄るなど威圧的な行動を取る
・暴力をほのめかす発言をする
◆医療機関が注意したいポイント
身体的暴力はスタッフの安全を脅かすだけでなく、刑事事件に発展する可能性もあります。ペイハラは実際にケガを負わせた場合に限りません。
机を叩く、詰め寄る、暴力をほのめかすといった行為も、医療従事者に恐怖や危険を感じさせることから、ペイハラとして適切に対応することが必要です。
【ペイハラ事例3】セクシュアルハラスメント
患者や家族による性的な言動や接触も、医療現場で問題となるペイハラの一つです。
・容姿に関する不快な発言を繰り返す
・プライベートな情報を執拗に聞き出そうとする
・しつこく食事に誘う
・不必要な身体接触を行う
・性的な内容のメッセージや手紙を送る
◆医療機関が注意したいポイント
セクシュアルハラスメントというと、不必要な身体接触をイメージするかもしれません。しかし、容姿への言及や食事への誘い、プライベートな情報を聞き出そうとする行為なども、相手が不快に感じる場合はペイハラに該当する可能性があります。
悪意の有無にかかわらず、受け手に不快感や精神的負担を与える言動には注意が必要です。
【ペイハラ事例4】過度・不当な要求
医療機関では対応が困難な要求や、合理性を欠く要求を繰り返す行為もペイハラに該当する場合があります。
・診断書や証明書について自身に有利な記載を求める
・医学的必要性のない検査や処方を要求する
・診療順を無視した優先診療を求める
・診療時間外の対応を強く求める
・特定の医師やスタッフとの長時間の面談を要求する
◆医療機関が注意したいポイント
患者からの要望であっても、医学的な根拠や院内ルールを超える内容まで受け入れなければならないわけではありません。「患者の希望」と「過度・不当な要求」を混同しないことが大切です。
要求が正当な権利の範囲を超えている場合は、毅然とした対応が必要であり、安易に受け入れると同様の要求が繰り返される恐れがあります。
【ペイハラ事例5】SNSや口コミによる嫌がらせ
近年はインターネット上での誹謗中傷や嫌がらせも、医療機関に大きな影響を与えています。
・事実と異なる内容をSNSに投稿する
・特定のスタッフを名指しで批判する
・悪意のある口コミを繰り返し投稿する
・院内で撮影した写真や動画を無断で公開する
・他者に低評価レビューの投稿を呼びかける
◆医療機関が注意したいポイント
SNSや口コミは、患者が意見や感想を発信するための手段の一つです。しかし、事実と異なる内容を投稿したり、特定のスタッフを誹謗中傷したりする行為は、医療機関の信用やスタッフの名誉を傷つける恐れがあります。
正当な意見や感想を伝えることと、嫌がらせを目的とした投稿は異なることに注意が必要です。
ここまで紹介したように、ペイハラには暴言や暴力だけでなく、過度な要求やSNSでの嫌がらせなど、さまざまな形があります。
しかし、こうした行為は突然起こるものではなく、複数の要因が重なって生じるケースも少なくありません。では、なぜペイハラは起きるのでしょうか。次項でその背景を見ていきましょう。
なぜペイハラは起きるのか
松本氏によると、ペイハラは、患者や家族の一方的な問題として捉えられがちだそうです。しかし、実際には待ち時間や説明不足、認識のずれなど、さまざまな要因が重なって生じることも少なくないといいます。
適切な予防策を講じるために、まずはペイハラが起こる背景や要因を理解しておきましょう。
患者の状態に起因する要因
医療機関では、患者や家族が病気やけがに対する不安やストレスを抱えた状態で来院するため、感情的な対立が生じやすい傾向があります。
<主な要因>
・ 病状や治療経過に対する不安
・ 認知症や精神疾患などによるコミュニケーションの困難
・ 治療結果への期待とのギャップ
・ 家族の治療方針への不満や不安
・ 医療費負担への不満
・ 診療や治療内容への理解不足
これらの要因が重なることで、過度な要求やクレームにつながるケースは少なくありません。
医療機関側に起因する要因
ペイハラは患者側の問題だけで起こるものではありません。医療機関側の体制やコミュニケーション上の課題が、患者や家族の不満や不信感につながり、トラブルの引き金となる場合もあります。
待ち時間の長さ
松本氏は「患者は体調不良や不安を抱えた状態で受診しているため、長時間の待機が大きなストレスとなり、クレームやトラブルにつながることがあります」と指摘します。
また、待ち時間の見通しがわからなかったり、十分な案内が行われなかったりすると、不満がさらに大きくなることがあります。
職種間の情報共有不足
受付スタッフ、看護師、医師など情報共有が不十分だと、患者や家族に対する説明に食い違いが生じることがあります。その結果、「話が違う」「十分な説明を受けていない」といった不満につながり、トラブルを引き起こす恐れがあります。
コミュニケーション上の課題
医療機関には幅広い年代や背景を持つ患者が来院するため、本来は一人ひとりに応じた丁寧な説明が求められます。
「限られた診療時間の中ですべての患者に十分な説明を行うことは容易ではなく、説明不足や認識のずれが不満やトラブルにつながることがあります」(松本氏)
正当な意見・苦情とペイハラはどう見分ける?
ペイハラ対策に取り組む上で、多くの医療機関が悩むのが「どこからが正当な意見・苦情で、どこからがペイハラなのか」という線引きです。
患者には、説明を求めたり不満を伝えたりする権利がある一方で、その内容や伝え方によってはペイハラに該当する場合もあります。ここでは、判断の基準となる考え方や現場で迷いやすいグレーゾーン事例をもとに、見極めのポイントを解説します。
判断基準
正当な意見・苦情とペイハラの線引きについて、松本氏は次の2つの観点が重要だと説明します。
・訴えの内容に合理性があるか
・意見や要望の伝え方が社会通念上許容される範囲か
「内容自体が妥当であっても、暴言や威圧的な言動、暴力行為など不適切な手段を伴う場合はペイハラに該当する可能性があります。実際には、訴えの内容と伝達手段の双方を踏まえ、個別に判断することが求められます」(松本氏)
判断に迷いやすいグレーゾーン事例
正当な苦情や要望とペイハラの線引きは、実際の現場では必ずしも明確ではありません。患者の訴え自体は正当であっても、その伝え方や要求の度合いによってはペイハラに該当する場合があります。
特に判断に迷いやすいのが、正当な権利の行使とペイハラの境界にある「グレーゾーン」のケースです。ここでは、現場で遭遇しやすい事例をもとに、見極めのポイントを確認していきましょう。
【グレーゾーン事例1】診療内容への強い不満や繰り返しの説明要求
こんなケースはペイハラ?
・ 診療内容に納得できず、診察後に再度説明を求められた
・ 「治療方針が理解できない」と強い不満を訴えられた
・ 電話や来院時に繰り返し治療内容について確認を受けた
・ 説明を受けても納得できず、複数のスタッフに同じ内容を確認していた
診療内容に納得できず、繰り返し説明を求められると、「どこまで対応すべきなのだろう」と悩むこともあるでしょう。しかし、この段階では直ちにペイハラとはいえません。患者が診療内容を理解するために説明を求めることは正当な権利だからです。
一方で、「医療機関が十分な説明を行ったにもかかわらず同じ要求を繰り返したり、脅し文句を使ったり、机を叩くなど威圧的な言動を伴ったりする場合は、ペイハラと判断される可能性があります」と松本氏は指摘します。
▼見極めのポイント
説明を求める行為そのものではなく、要求の回数や伝え方が社会通念上許容される範囲かどうかが判断のポイントです。
【グレーゾーン事例2】「口コミに書く」「SNSで発信する」といった発言
こんなケースはペイハラ?
・ 「この対応は口コミに書こうと思います」と言われた
・ 「SNSで今回の出来事を発信するかもしれません」と伝えられた
・ 「この対応について口コミで発信するかは今後の対応次第です」と言われた
「患者から『口コミに書く』『SNSで発信する』と言われても、その発言だけで直ちにペイハラや違法行為に当たるとは限りません。医療機関としては、投稿そのものを制止するのではなく、患者が不満を抱く原因を丁寧に確認し、解決に向けた対応を図ることが重要です」(松本氏)
一方で、その発言が要望を通すための手段として用いられたり、医療機関に圧力をかけたりする目的で行われている場合は、ペイハラに該当する可能性があります。
また、実際に口コミやSNSへ投稿された場合は、まず内容を冷静に確認することが求められます。事実に基づく意見や感想であれば、感情的な反論は避け、必要に応じて簡潔かつ誠実に返信することも一手です。
▼見極めのポイント
SNSへの投稿を示唆したこと自体ではなく、その発言が脅しや圧力として用いられていないかが判断のポイントです。
【グレーゾーン事例3】医療機関のミスに対する謝罪要求
こんなケースはペイハラ?
・ 院長から直接謝罪してほしいと求められた
・ 医療機関として正式な謝罪文を出してほしいと求められた
・ 今後の再発防止策を文書で示してほしいと要望された
・ 金銭的な補償も含めた対応を申し入れられた
松本氏は「医療機関側に明らかな落ち度がある場合、患者が説明や謝罪を求めること自体は正当な苦情であり、直ちにペイハラには該当しません」と説明します。
例えば、長時間待たされたことに対して不満を伝えたり、理由の説明や謝罪を求めたりする行為は、通常の権利の範囲といえます。
一方で、同じ要求を執拗に繰り返したり、過度な謝罪や補償を求めたりする場合には、ペイハラに発展する可能性があります。
▼見極めのポイント
謝罪を求めること自体ではなく、要求内容や要求の程度が社会通念上妥当な範囲に収まっているかが判断のポイントです。
現場での見極め方
医療現場では、要求内容そのものは正当であっても、回数や時間、伝え方が過度となるケースが少なくありません。
そのため、ペイハラかどうかを判断する際は、「何を求めているか」だけでなく、「どのように求めているか」という視点も重要です。
「例えば、暴言や威圧的な言動、長時間にわたる対応要求、同じ内容の繰り返しなどが見られる場合は注意が必要です。判断に迷う場合は、当事者の主観ではなく、『一般の人から見て社会通念上許容される範囲か』という客観的な視点で検討すると良いでしょう」(松本氏)
<判断に迷ったときのチェックポイント>
ペイハラかどうか判断に迷う場合は、次の観点を確認してみましょう。いずれかに当てはまる場合は、ペイハラに該当する可能性があります。
□ 要求内容に合理性があるか
□ 同じ要求が繰り返されていないか
□ 長時間の対応が求められていないか
□ 複数のスタッフに同じ要求が行われていないか
□ 威圧的な言動や脅しを伴っていないか
□ 業務に支障が生じていないか
□ スタッフが心理的負担や恐怖を感じていないか
今日からできるクリニックのペイハラ対策5つのポイント
ペイハラは、発生してから対応を考えるのではなく、日頃から備えておくことが重要です。特にクリニックでは、少人数のスタッフで診療を行うケースも多く、一人の患者対応が診療や他のスタッフ業務に影響を及ぼすことがあります。
そのため、対応方針の明確化や相談体制の整備など、組織としての仕組みづくりが求められます。ここでは、スタッフを守りながら安心して医療を提供するために、今日から実践できる5つの対策ポイントを紹介します。
対策① クリニックの対応方針を明確にし、スタッフ全員に伝達する
ペイハラ対策の第一歩は、「患者や家族からの意見や苦情には真摯に対応する一方、暴言や威圧的な言動、暴力行為は許容しない」という組織としての方針を明確にすることです。
方針が曖昧なままでは、スタッフによって対応にばらつきが生じたり、特定のスタッフに負担が集中したりする可能性があります。
「ペイハラの定義や報告先、対応手順などを院内で共有し、スタッフが一人で抱え込まなくていいことを周知しましょう」(松本氏)
対策② 対応マニュアルを作成し、いつでも見返せる場所に置く
「ペイハラ発生時の対応を個人の判断に委ねないためにも、対応マニュアルを整備しておくことが重要です。マニュアルには、ペイハラの定義や具体例、発生時の報告ルート、対応の流れなどを盛り込み、自院の実情に合わせた内容にしましょう」と松本氏は語ります。
また、定期的に内容を見直すとともに、スタッフがいつでも確認できる場所に保管し、院内で活用しやすい環境を整えましょう。
対策③ スタッフが相談できる体制を整える
ペイハラが発生した際に重要なのは、スタッフが速やかに相談・報告できる体制を整えておくことです。
「相談窓口や報告ルートを明確にし、困ったときはすぐに上司や管理者へ相談できる環境を整えましょう。また、管理者は現場任せにせず、必要に応じて対応に加わる姿勢が求められます。相談しやすい職場風土をつくることで、ペイハラの早期発見・早期対応につながります」(松本氏)
対策④ 記録を残す仕組みを構築する
松本氏は「ペイハラへの適切な対応や再発防止のためには、記録を残す仕組みを整えておくことが重要です」と強調します。
トラブルが発生した際は、「いつ・どこで・誰が・何をしたのか」を時系列で記録し、必要に応じて録音データなども保存しましょう。
こうした記録は、「言った・言わない」のトラブルを防ぐだけでなく、問題が深刻化した際の客観的な証拠となります。また、事案を振り返り、院内の対応ルールや再発防止策を検討する際にも役立ちます。
対策⑤ スタッフを守るための環境整備と再発防止に取り組む
「ペイハラ対策では、被害を受けたスタッフへのフォローやメンタルケアを行い、一人で抱え込ませない環境を整えることが重要です。また、悪質な事案については、警察や弁護士と連携できる体制をあらかじめ整えておきましょう。さらに、発生した事例を院内で共有し、再発防止に生かすことも大切です」(松本氏)
定期的な研修や教育に加え、情報共有ツールを活用して対応履歴や注意事項を蓄積することで、組織全体の対応力向上につながります。
特に、伝達事項や患者対応時の注意点をスタッフ間でスムーズに共有できる仕組みを整えておくことで、属人的な対応を防ぎやすくなるでしょう。
伝達事項を全員に共有・記録に残せる!
情報共有アプリで働きやすい職場環境を整備
ペイハラを受けた際の対応4原則
ペイハラへの対応では「どのように見極めるか」だけでなく、「発生した際にどう対応するか」も重要なポイントです。
ここでは、スタッフを守りながら適切に対応するために、クリニックが押さえておきたい4つの対応原則を紹介します。
対応原則① 一人で抱え込まず、組織で対応する
患者対応を特定のスタッフだけに任せるのではなく、管理者や責任者へ速やかに報告し、複数人で対応することが大切です。
「現場任せにせず、『組織として対応する』という姿勢を示すことで、スタッフの負担軽減にもつながります」(松本氏)
対応原則② 事実関係を確認し、記録を残す
トラブルが発生した場合は、「いつ・どこで・誰が・何をしたのか」を時系列で記録しましょう。松本氏によると、「言った・言わない」の争いを防ぎ、事実関係を客観的に確認するためにも、トラブル発生時には記録を残すことが重要だといいます。
必要に応じて録音データや防犯カメラ映像なども保存しておくことで、後日の事実確認や再発防止に役立つでしょう。
対応原則➂ 対応方針を統一する
担当者ごとに説明や対応が異なると、患者の不信感を招き、トラブルが長引く原因になります。
「責任者や窓口を明確化し、どのような説明を行うか、どこまで対応するかを院内で共有した上で対応しましょう」(松本氏)
対応原則④ 院内で対応が難しい場合は弁護士・警察など外部機関と連携する
「暴言や脅迫、居座り行為など、院内だけでの対応が難しい場合は、早めに弁護士や警察などの外部機関へ相談することも重要です」と松本氏は強調します。
「対応が難しい」「通常の苦情対応の範囲を超えている」と感じた時点で相談を検討しましょう。
<こんなケースは早めの相談を>
・ 暴行・傷害・器物損壊があった
・ 「殺すぞ」など脅迫的言動があった
・ SNSや口コミで誹謗中傷が続いている
・ 執拗な電話や来院が繰り返される
・ 業務継続に支障が出ている
・ 院内だけで解決が難しい
松本弁護士に聞くペイハラに関するよくある質問(FAQ)
ペイハラについて理解を深めても、「実際に現場で起きたらどう対応すればいいのか」「これはペイハラに当たるのか」と判断に迷う場面は少なくありません。
そこで最後に、医療機関から寄せられることの多い疑問をQ&A形式でまとめました。現場対応のポイントや法的な考え方について、確認していきましょう。
Q.「これはペイハラかもしれない」と感じたとき、現場のスタッフはまず何を優先すべきでしょうか?
A.まずは一人で抱え込まないことが大切です。無理にその場で解決しようとせず、速やかに上司や管理者へ報告し、組織として対応しましょう。
また、後から事実関係を確認できるよう、患者の言動や対応経緯を記録として残しておくことも重要です。
Q. 暴言や執拗な要求を繰り返す患者に対して、受診や院内への立ち入りを制限することはできるのでしょうか?
A.患者による暴言や威圧的な言動、執拗な要求が続き、医療機関の業務や他の患者への診療に支障が生じている場合には、受診や院内への立ち入りを制限できる可能性があります。ただし、患者が診療を受ける権利(※)にも関わるため、事実関係を十分に確認した上で慎重に検討することが重要です。
※応召義務
<参考>医師法(昭和23年法律第201号)(抄)
第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
<参考>医師法(昭和23年法律第201号)(抄)
第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
Q.患者から「口コミに書く」「SNSで発信する」と言われた場合や、実際に誹謗中傷を書き込まれた場合、クリニックはどのように対応すべきでしょうか?
A.まずは発言の背景にある不満や要望を確認し、丁寧な説明や対話による解決を試みることが大切です。実際に口コミが投稿された場合も、感情的に反論するのではなく、内容を冷静に確認した上で、必要に応じて簡潔かつ誠実に対応しましょう。
明らかな誹謗中傷や名誉毀損が疑われる場合には、弁護士への相談も検討します。
Q. 患者から暴言を受けた場合、会話を録音して証拠として残しても問題ないのでしょうか?
A.ペイハラが疑われる場面では、後から事実関係を確認できるよう、会話を記録として残しておくことは有用です。録音は「言った・言わない」の争いを防ぐだけでなく、トラブルが深刻化した際の証拠としても役立ちます。
Q.どのようなケースになると弁護士への相談や法的対応を検討する段階だと考えられますか?
A.「これは大きなトラブルになりそうだ」「現場だけでは対応が難しい」と感じた段階で、弁護士への相談を検討すると良いでしょう。実際には、問題が深刻化してからの相談となるケースも少なくありませんが、早めに専門家へ相談することで、トラブルの拡大を防ぎやすくなります。
また、患者の言動によってスタッフや他の患者の安全が脅かされるなど、身の危険を感じる場合は、ためらわず警察への通報を検討しましょう。
Q.ペイハラによってスタッフが精神的なダメージを受けた場合、院長や管理者はどのような対応を取るべきでしょうか?
A.スタッフが精神的な負担を抱えた場合は、一人で抱え込ませず、速やかにフォローすることが大切です。必要に応じて業務調整や配置転換を行い、ペイハラを行った患者との接触を避けられるよう配慮しましょう。
症状が深刻な場合は、休職を含めた対応も検討する必要があります。
Q.ペイハラ対策の必要性は感じていても、十分な人員や体制を確保できないクリニックも少なくありません。まず何から取り組むべきでしょうか?
A.まずは、クリニックとしての対応方針を明確にし、スタッフへ周知することから始めましょう。完璧な体制を一度に整える必要はありませんが、「ペイハラを許容しない」という方針を示し、相談先や対応手順を決めておくことが第一歩です。
また、2026年10月に施行された法改正では、カスタマーハラスメントに対する事業主の方針の明確化や周知などが求められています。そのため、クリニックの規模を問わず、対策を後回しにしないことが重要です。
まとめ|ペイハラ対策は「組織で備える」ことから
2026年10月の法改正を機に、医療機関においてもペイハラへの対策がますます重要になっています。ペイハラはスタッフの心身に負担を与えるだけでなく、離職や医療サービスの質の低下につながる可能性があります。実際に多くの開業医がペイハラを経験しているように、決して一部の医療機関だけの問題ではありません。
「大切なのは、トラブルが起きてから対応を考えるのではなく、組織として備えておくことです。まずは『方針を決める』『相談先を明確にする』『記録を残す』という基本的な体制づくりから始めましょう。現場のスタッフが一人で抱え込まないよう、院長や管理者が率先して対策に取り組むことが重要です」(松本氏)
患者と医療従事者の双方が安心できる医療環境を守るためにも、今からできる対策を一つずつ進めていきましょう。(クリニック未来ラボ編集部)
・【開業医調査】クリニックのスタッフ定着│定着できているドクターは何をしている?

<執筆者プロフィール>
クリニック未来ラボ編集部
クリニック未来ラボは、開業医、開業をめざす勤務医・医学生に向けたクリニック経営支援メディアです。独自の視線で調査・研究し、より良い医院経営に役立つ情報として発信。「開業医白書」をはじめ、診療報酬改定や医師の働き方改革、医療従事者の転職動向など、医院経営に関する調査レポートも公開しています。

