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2024.6.11

医療広告を取り巻く背景とガイドラインの概要《医療広告ガイドライン10のポイント》【第1回】

医療広告を取り巻く背景とガイドラインの概要

飲食店や美容サロンを探すように、インターネットで医療機関を検索する時代。病院やクリニックも、提供する治療や検査、設備の充実、患者への思いなどさまざまな情報発信の場として、ホームページなどのウェブサイトを活用しているかと思います。そこで忘れてはならないのが、医療広告ガイドライン。

ガイドラインに反したウェブサイトを取り締まる目的で、厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、不適切な医療情報をインターネットに掲載してしまうと行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第1回は医療広告を取り巻く背景とガイドラインの概要をお届けします。

美容医療のトラブル多発を背景に、医療広告の法規制が厳格化

多くの人が、病院やクリニック探しにインターネットの情報を参考にしています。医療ポータルサイト「ドクターズ・ファイル」が2020年7月に実施した調査(※)では、「医療機関を探すためにインターネットを活用する」と回答した割合はなんと100%でした。気になる症状や治療方法、治療費、健康法など、医療・ヘルスケアのさまざまな情報を、インターネットで得ようとしている人も多く、そのニーズに応えるように、各メディアは医療をテーマにした記事を次々と配信しています。

一方で、主に美容医療サービスを受けた消費者からトラブルの報告が相次ぎました。また、心ないメディアにおける記事のねつ造によって、インターネット上の医療・ヘルスケア情報の信ぴょう性が疑われるようになりました。そうしたことを背景に、2018年6月に「医療広告ガイドライン」が大幅に改訂。以下の主な変更点が、病院・クリニックの運営に大きな影響を与えたかと思います。

“医療機関のウェブサイト等についても、他の広告媒体と同様に規制の対象とし、虚偽又は誇大等の表示を禁止し、是正命令や罰則等の対象とすることとした。”

(医療広告ガイドライン第1-1より抜粋)

つまり、病院・クリニックのホームページをはじめとする「医療機関のウェブサイト」も、広告規制の対象となったのです。ホームページ以外にも、さまざまなウェブメディアが「医療機関のウェブサイト」に該当します。こちらは次回、詳しく解説します。ウェブサイトのほかには、次のような媒体が「広告」に該当する具体例として挙げられます。

■チラシやパンフレット、DM、FAX
(学術発表、既存患者への情報発信・広報は除く)
■ポスター、看板
(プラカード、建物や電車、自動車等に記載されたものを含む)
■新聞紙、雑誌、その他の出版物、放送
(費用を払って掲載・出演を依頼したもの)
■Eメール、インターネット上の広告
(医療機関の職員募集に関する広告は除く)
■不特定多数の者への説明会、相談会、スライドやビデオ、口頭による演述 など

(医療広告ガイドライン第2-4、5参照)

厳しくもあり、許容範囲が広いともいえる医療広告ガイドライン

医療広告ガイドラインとは、厚生労働省が医療法に基づいて策定した「医療機関に関する広告掲載上のルール」です。正式名称は「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」といいます。では、条文の冒頭にある一文をご覧ください。

“法第6条の5第3項の規定により、法又は広告告示により広告が可能とされた事項以外は、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も広告をしてはならないこととされている。”

(医療広告ガイドライン第4-1より抜粋)

「広告しても良いよ」と言ったこと以外は、どんな方法でも、誰であっても、広告してはいけない!ということで、いかに厳しいルールかがわかるかと思います。ただし、広告して良いことを一つ一つ個別に定めるのではなく、「○○に関する事項」のように一定の性質を持った項目群としてまとめて規定することで、幅広い事項の広告が認められています。

医療は人の生命や健康に関わるサービスであり、虚偽広告や誇大広告によって受け手が不適当なサービスを受けた際の被害は計り知れません。一方で、患者が自分に合った医療機関や治療を知るためには、広告による正確かつ詳しい情報が必要だという考えに基づき、厳格だけれど幅を持たせたルールとなっているのです。

医療広告ガイドラインを守らないと、一体どうなるのか?

ガイドラインを違反したからといって、即刻、罰則を受けるというわけではありません。一般的に次のような流れで対処をするとされています。

1.任意調査

まずは任意調査として、説明や書類の提出が求められます。

2.報告命令・立ち入り検査

任意調査に応じない場合や、説明・書類に疑義がある場合は、行政による報告命令、あるいは立ち入り検査が行われます。

3.中止や是正の指導・命令

広告違反と判断されたら、行政指導により広告の中止や内容の是正が求められます(指導)。従わない場合や、違反を繰り返すといった場合は、広告の中止・内容の是正が命じられます(命令)。

4.告発

6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金

虚偽広告(麻酔科の診療科目を広告する際に、医師の氏名を掲載しない)、あるいはその他の違反広告の中止命令・是正命令に従わない場合

20 万円以下の罰金

報告命令を怠る場合、虚偽の報告をする場合、立入検査を拒否する場合

5.行政処分

悪質な違反広告を行った場合は、上記の告発に加えて、病院・診療所の開設許可の取り消し、もしくは期間を定めた閉鎖が命じられます

(医療広告ガイドライン第6-4-(2)参照)

なお、罰則を受ける対象者は、「法人自体又は当該広告違反の主導的な立場にあった者」とされています。「主導的に」とは、「主に誰の強い意思で違反広告が掲載されたか」というところでしょう。具体的には、医療機関の開設者・管理者、違反広告を手がけた広告代理店や出版社、放送局などメディア運営側の代表者が挙げられます。今回は、インターネットにおける医療情報の扱いが厳しくなった背景と、広告ガイドラインの概要についてご説明しました。

次回は、「どこまでが医療機関のウェブサイトにあたる?」「ウェブサイトの監視事業で、違反を疑う通報が年間8000件近くに!?」など、より踏み込んだテーマについて解説します。

※ドクターズ・ファイルによる「患者のクリニック選びに関する調査」。対象は、全国主要都市に住む、もしくは勤務する20~59歳の男女4000人。2020年7月にインターネット調査にて実施。

<執筆者プロフィール>
金光 美紅(かねみつ・みく)
ライター。大阪府生まれ。大手人材会社にて広告規制に即したコピーライティングに従事。2015年からは医療メディアのライターとして、医師・歯科医師をはじめとする医療従事者のほか、三師会会長、行政首長インタビューなどを経験。医療機関の広報・PR、疾患啓発などさまざまな記事を手がける。ライター歴10年目を機に独立。広告ガイドラインを遵守した記事作成を得意とする。

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