経営のヒント

2025.9.12

クリニックの採用面接で「本当に合う人材」を見極めるには?《人事の外来お悩み相談室》【第2回】

採用面接でミスマッチを防ぐには?

「スタッフがすぐ離職してしまう」「適正な給料の決め方がわからない」「マネジメントって何をすればいいのだろうか?」

クリニック経営において最大の悩みの種となるのが、「ヒト」に関すること。

本コラムでは、なかなか相談しづらいクリニックの「ヒト」にまつわる課題に数多く向き合ってきた専門家が、人材採用や育成、組織づくりなどの悩みに答えます。

第2回のテーマは、「採用面接で『本当に合う人材』を見極めるにはどうしたらいいか?」です。

■専門家プロフィール

株式会社ギミック執行役員 HR事業部門
「人事の外来」人事の相談窓口担当
寺内 隆央

1993年株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。新卒採用に苦悩する企業へ、前例にとらわれない画期的な採用スキームを提案、実装。さらに、企業規模を問わず、人材の採用全般や育成・評価制度策定までも手がけ、人材の育成や定着を通して企業の成長に貢献する。その後営業コンサルタントとして、大手人材企業やIT企業などの組織づくりに従事。将来の「組織の成長」まで見据えた人材の育成や組織の構築が高い評価を得る。

HRコンサルチーム アカウントマネージャー
「人事の外来」人事の相談窓口担当
髙野 祐介

2014年に株式会社ギミックに入社後、ドクターズ・ファイルの営業活動に従事。開業医が抱えるクリニック経営や人事の課題に直に触れ、その多様さを実感する。2020年以降は営業企画部長や営業部長として組織マネジメントや人材育成にも尽力。マクロとミクロ双方の視点で組織力強化に貢献する。現在は「クリニックの人材育成」を支えるHRコンサルチーム責任者として、ドクターズ・ファイル クリニコを活用した人事評価制度を多数のクリニックへ導入。

ドクターズ・ファイル クリニコ

この記事でわかること

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「本当に合う人材」を採用したいBクリニックのお悩み

今回は、「本当に自院に合う人材を採用したい」「長く活躍してくれる人材を採用したい」と思っているBクリニックのお悩みを解決します。 

〈Bクリニック〉

東京都内にある開業9年目のクリニック。標榜科目は内科・消化器内科・小児科・アレルギー科で、赤ちゃんから高齢者まで幅広い患者が来院する。スタッフは受付・看護師含めて6人で、20~30代の若いメンバーが多い。1年未満で辞めてしまうスタッフが多く、常に採用活動を行って2~3人が入れ替わっている状態。

スタッフの定着率が低く、慢性的な人手不足に陥ってしまう

さっそく、Bクリニックから寄せられた悩みを見ていきましょう。

採用する際は、何年か前に作った募集要項をそのまま使っていて、面接は私(院長)が担当。採用の決め手は雰囲気が当院に合いそうかという「印象」と、「経歴」を重視しています。

どこのクリニックも人手不足と聞くので、スタッフは取り合い。とにかく早く採用しなくてはと思うのですが、面接では何となく感じが良かったのに、入職後にミスマッチが発覚することはざらです。スキル、経験ともに十分だと思って期待していたのですが、すぐ辞めてしまったり、不満が出て、クリニックの中でもめ事が起きてしまったり。結果的にせっかく採用してもすぐ人手不足に陥ります。

どうすれば“本当に当院に合う人材”が採用できるのでしょうか?

クリニックでなぜ「良い人材」が採用できないのか?

良い人だと思って採用したものの、実際に働いてみると「価値観が合わない」「指示が通らない」といったズレが出てきてしまった……。クリニックの現場でよくある問題ですが、なぜズレが生じるかというと、理念への共感”がされていないからと推察されます。

採用後の「何となく合わない」の正体の多くは、「理念とのズレ」といえるかもしれません。そのため、採用面接の時点で、「クリニックの理念に共感した人材」を見つけることが大切です。

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クリニックの理念は採用においても大事な指標になる

そもそも「理念」とは、クリニックのめざす方向性や使命を言語化したもの。クリニック経営の指標となります。そして採用のシーンにおいても、「クリニックに合った人材」を採用する上で、指標となる重要な役割を持っています。

採用したスタッフが理念に共感していない3つの理由

なぜ採用したスタッフが理念への共感をしていないかというと、以下の3つの理由が考えられます。

  • クリニックの理念を設計していない
  • 理念が抽象的すぎて伝わらない(言語化できていない)
  • スタッフに伝えるべきものではないと思って面接や求人票で伝えていない

総じて、求職者に「理念が伝わっていない」ことがわかります。

採用面接では、どうしても応募者のスキルや経験、雰囲気を重視しがちです。しかし重要なのはスキルや経験だけではなく、“理念への共感”があるかどうかを見極めること。「うちのクリニックは何を大事にしているのか」「どんな働き方をしてほしいのか」は、理念の上で成り立ちます。

そのため、理念を伝え、共感を見極めることが、ミスマッチを防ぎ、活躍する人の確保につながると考えられます。 “採用面接=価値観の擦り合わせの場”であると認識することが重要でしょう。

クリニックの理念を設計し、応募者にも伝わるようにしましょう(寺内)

クリニックの採用面接の面接官の役割とスキル

採用面接は経営者である院長だけで行うクリニックが多いと思いますが、スタッフに同席してもらうのも「クリニックに合った人材の採用」に効果的といえます。それは応募者にとって実際に一緒に働く人の目線は非常に大事で、クリニックに対する印象も変わるからです。

ただし、スタッフを面接官に加える場合、面接官が院長と同じように自院の理念を語れるように指導しておくことが大切です。スタッフの言葉で自院の考え方や価値観を言語化して伝えられると、応募者も“この職場で働くイメージ”が湧きやすいのです。

信頼できるスタッフに面接へ同席してもらうのも一手です(髙野)
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相談から見る採用面接の課題6選

Bクリニックの相談から、「本当に自院に合う人材」を採用できない課題がわかってきました。どんな採用課題があるのか見ていきましょう。

どんな人材が欲しいか整理されていない

「スキルがある人」「経験がある人」というだけではなく、クリニックとして「どういう価値観を持つ人に来てほしいのか」「どういう働き方をしてほしいのか」を事前に言語化しておくことが重要です。スキルや経験にしても、求める働き方や活躍の仕方があってどんなスペックの人が必要かという情報整理は不可欠。求人を出す前に検討しておきたい事項です。

「何となく良さそう」に重点を置きすぎている

人柄や雰囲気は重要ですが、それだけでは採用後にミスマッチが起こりがち。人柄や雰囲気といった表層だけではなく、応募者を深層的に理解するため、「仕事におけるスタンス」や「価値観」にも着目することが必要といえます。

スキルや経験ばかり重視している

即戦力になってほしいからと、スキルや経験ばかりを重視していないでしょうか。実は、人材要項を整理してみると、今すぐにはそれほどスキルの高さが必要なく、少しずつ育てれば良かった、というケースは少なくありません。

長く活躍してもらいたいのであれば、肝心なのは「志」の部分。スキルや経験ばかりが重要とはいえないでしょう。

理念を伝えていない

Bクリニックの相談を見ると、クリニックの理念を伝えていないように思います。実は、「クリニックの理念とは、患者さんに伝えるべきもの。わざわざスタッフに伝える必要はない」と思い込んでいるケースは少なくありません。

しかし、理想のクリニックづくりは院長一人ではできないはず。ともに働くスタッフにこそ、理念を共有する・浸透させることが大切です。

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面接官一人の独断のみで決定している

一人の面接官だけで合否を決めてしまうと、どうしても主観が入りかねません。複数人で見ることで、より客観的に「本当に自院に合う人材かどうか」を判断できるでしょう。

また、面接自体は一人で行ったとしても、今いるスタッフにも意見を求め、参考にすると良いかもしれません。

採用後のフォローが薄い、あるいはない

せっかく採用しても、採用後のフォロー体制がないと、すぐに辞めてしまうことも。スタッフの定着率を高めるには、育成・マネジメントについても併せて考える必要がありそうです。

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自院の課題を見直してみましょう(寺内)

クリニックの採用面接の方法を専門家がアドバイス

「人事の外来」として数多くのクリニックへ向き合ってきた専門家の二人が、今回Bクリニックから寄せられたお悩みの「“本当に当院に合う人材”を採用するにはどうしたらいいか?」について詳しく解説します。

人材要件の整理

髙野:まずは人材要件を整理しましょう。仕事に対する姿勢、価値観など「うちのクリニックが求める人ってどんな人?」を言語化するわけですね。

寺内:そのためには、前提としてまず「クリニックの理念=理想のクリニック像」を抽象的にではなく具体的に、しっかり言語化すること。理念が明確であってはじめて、「うちのクリニックに必要な人材はどんな人物か」がわかるのです。

面接質問の見直し

髙野:次に、面接の質問を見直してみましょう。“理念への共感”の有無を引き出せるような質問を入れるのがいいと思います。

寺内:“理念”を職種ごとにもっと具体的な言葉に落とし込んで、例えばその理念をかなえるためには看護師としてどういう行動をしてほしいかなどを考えます。その基準はのちにスタッフの評価軸としても活用できると思います。ですから、採用面接では、理念を実現するための具体的な行動について、過去のエピソードを聞いてみるのも一手ではないでしょうか。

〈すべての患者さんに対して、境界をつくらず自分事化する〉というのが理念だとした場合の質問例

「これまでの看護師としての業務の中で、ご自身の担当外の患者さんからお悩みを相談された経験はありますか? その時、どのように対応しましたか?」

髙野:一方で、応募者ご自身がどういう看護師になりたいのか、それをどうやって実現しようとしているのか、といった、ご本人にフォーカスした質問も大切ですね。

寺内:その質問の回答と、理念に基づいて院長がイメージする「うちのクリニックが求める人」がマッチするのであれば、採用は成功といえるでしょう。

面接官研修の実施

寺内:スタッフにも面接に入ってもらっている場合、面接官研修もお勧めです。

第一印象に引きずられる、先入観や偏見によって不適切な評価をしてしまうなどのエラーがないよう、いくつかの事例を提示して、公平かつ的確に評価することを学ぶ「考課者訓練」というものがあるので、そうしたプログラムを取り入れるのもいいと思います。

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クリニックの採用面接FAQ

Q.面接では良い感じの人だったのに、実際に来たらなじめない。なぜ?

A.面接で「感じが良い」「雰囲気が良い」だけで判断すると、価値観のズレが見えにくいからです。上で触れたように、“理念への共感”を確認できる質問を入れることで、ミスマッチを防げます。

Q.面接ではスキルも経験も十分だったのに、入職後に活躍してもらえないのはどうして?

A.どんなにスキルや経験がある人でも、「ここで働きたい」と思えなければ活躍してもらえないでしょう。院長が考える「理想のクリニック像」と応募者が考える「理想の働き方」「理想の将来像」を擦り合わせることが必要です。

Q.いざ採用してみたら、早々に辞職してしまうことが多いのですが?

A.採用後のフォロー体制がないと、スタッフは定着しにくいです。育成計画やマネジメント体制をつくったり、定期的なコミュニケーションの場を設けたりすることで、定着率の向上を図れます。

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看護師や医療事務、受付などクリニックで
働くスタッフを適切に評価・管理

ドクターズ・ファイル クリニコ

Q.採用面接にはスタッフも同席すべき? 採用面接は何人で行うのが適切?

A.院長一人だけだと主観が入りがちなので、スタッフも同席するのがお勧め。院長を含めて2~3人で行うと、複数の目でより客観的に評価することができそうです。前提として、同席するスタッフには、クリニックの理念や価値観を事前に共有しましょう。

Q.オンライン面接は良い?

A.面接を複数回行う場合、1次面接をオンラインで行うのは良いと思います。ただ、面接を1回しか行わない場合はあまりお勧めできません。なぜなら、実際に顔と顔を合わせてこそ感じられる空気感も大切にしないとミスマッチが起こりやすいからです。院内見学を兼ねて対面での面接にすると良いでしょう。

Q.面接は1度でOK?

A.1回でも問題ありません。ただ、複数回行うメリットもあります。例えば1回目は一緒に働くスタッフが、2回目は院長が面接官を担うなどすると、より多角的に見ることができそうです。

Q.結婚したばかりの人に、「お子さんができる予定はありますか」と聞いたら怪訝な顔をされてしまいました。

A.その質問はNGです。差別や偏見につながる可能性があるのでやめましょう。本籍地・出生地・国籍、宗教・思想・信条、恋愛・結婚・出産に関する質問などは、基本的人権の侵害や就職差別につながるため、法律で禁止されています。

よくある質問をまとめました。ぜひ参考にしてみてください(髙野)

まとめ

採用面接に“正解”はありません。しかし、理念を共有し、価値観を擦り合わせる場として面接を位置付けることで、ミスマッチは減らせます。「この人、感じが良いな」だけではない、“本当に自院に合う人材”を見極める採用面接をぜひ実現したいですね。

ただ、日々診療に忙しくしながら考えるのは、大変なもの。そんなときはプロに相談するのも一手です。

人材や組織のお悩みがあれば、ぜひクリニック向け総合サービスプラットフォーム「ドクターズ・ファイル」が提供する「人事の外来」のような、人材採用や育成、評価、組織開発、スタッフとの信頼関係の構築へのアドバイスが受けられるサービスを活用してみてください。

■お問い合わせ先
ドクターズ・ファイルが提供する「人事の外来」窓口
メールアドレス:contact_hr@gimic.co.jp
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