やってはいけない!クリニック採用面接のNG対応《HR(人事)講座》【第2回】

クリニックの採用面接

HRとはHuman Resources(ヒューマンリソース)の略で、日本語では「人的資源」のこと。近年、少子高齢化の波を受けた労働人口の減少などに伴い、あらゆる企業が「人的資源」の活用を強化しています。

医療業界でも慢性的な人材不足が深刻化しており、採用や教育といったHR課題に対しての対策を急がなければなりません。

そこで本コーナーでは、クリニック未来ラボ主任研究員で、国家資格キャリアコンサルタントでもあるHR領域の専門家・中村美紀が、全6回にわたって、クリニックでも応用できるHR課題解決のヒントを徹底解説。

第2回のテーマは、「やってはいけないクリニックの採用面接」です。

■専門家プロフィール

クリニック未来ラボ主任研究員
株式会社ギミック執行役員
国家資格キャリアコンサルタント
米国CCE,Inc.GCDF-Japanキャリアカウンセラー
中村 美紀

20年間、現・株式会社リクルートホールディングスのHR・住宅領域においてクリエイティブ責任者として活躍後、独立。クリエイティブコンサルタントを経て、2022年株式会社ギミック入社。執行役員として編集制作部門を管轄するほか、キャリア研修企画設計から講師までを担当するなど、人材領域でも活動。2025年よりクリニック未来ラボ主任研究員、JOBSマガジン編集長。

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採用面接とは?

「採用面接」とは、応募者と直接コミュニケーションを取ることで、書類だけでは判断できない人間性や能力、考え方などを見極める選考手法です。クリニックにおいても、採用面接は非常に重要で、応募者とクリニックの相互理解を深める場となります。

近年は、人手不足や働き方に対する価値観の多様化など社会的な背景から、面接が「応募者を選ぶ場」であると同時に、「応募者に選ばれる場」であるとする考え方が定着しつつあります。つまり、面接官である院長は「選ぶ側」であると同時に「選ばれる側」でもあるのです。

応募者に選ばれるためには疑問や不安を取り除き、「ここで働きたい」という前向きな気持ちを醸成することが大切です。院長の対応は応募者の印象に大きく影響するため、自院の魅力やビジョンをしっかり伝えることが求められます。

面接を通じて相互理解が深まれば、自院に合った人材を確保でき、定着によってチームワークが生まれます。その結果、患者満足度が高まり、クリニックの成長を後押しすることにもつながります。

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なぜ今、クリニックで「採用面接」が注目されるのか?

医療現場でも「人材確保」が大きな課題となる中、採用活動の質が問われる時代に突入しています。

1. 採用面接の重要性が全国的に高まっている

ここ数年、社会全体で人手不足が常態化して優秀な人材の採用・定着が困難となっており、採用面接の重要性は全国的に高まっています。

この傾向は医療業界においても例外ではなく、背景には主に以下のような要因があります。

  • 高齢化による医療ニーズの急増
  • 少子化による労働人口の減少
  • 介護施設や企業の健康管理部門など、医療機関以外の入職先との採用競争の激化

これらの要因により、医療人材の確保はますます困難になっています。

実際、厚生労働省が発表した「令和7年7月分一般職業紹介状況(パート含む)」(※1)によると、職業全体の有効求人倍率は約1.09倍であるのに対し、医療関連(クリニック以外の病院や介護施設なども含む)の職種では以下のように倍近く高い水準となっており、採用の難しさが際立っています。

医療関連職種の有効求人倍率

  • 医師、歯科医師、獣医師、薬剤師:約1.97倍
  • 保健師、助産師、看護師:約1.95倍
  • 医療技術者:約2.99培
  • その他の保健医療従事者:約1.88培

こうした数値からも、医療業界はまさに売り手市場となっていることがわかります。このような状況下では、採用活動において「採用する側の視点」だけでなく、「応募者の視点」を重視した対応が求められるようになっています。

2. 採用競争が激化する中、応募者はよりシビアにクリニックを選ぶ

採用競合が多いほど、応募者は「自分にとって働きやすいクリニック」を厳しく見極める傾向にあります。その中で優位に立てないクリニックは応募が集まりにくく、人手不足が慢性化し、残ったスタッフへの仕事の負担も増加。結果として離職を招き、さらなる人手不足という悪循環に陥るリスクも否めません。

こうした採用に関する課題は、クリニック未来ラボ編集部の調査でも明らかです。

開業医を対象に調査した「開業医白書2024」(※2)では、「開業医の悩み」という設問に対し、48.0%(1位)の開業医が「スタッフの採用」と回答。採用面接の重要性を多くの院長が実感している一方で、「どう進めて良いかわからない」と悩んでいる現状が浮き彫りになっています。

さらに、スタッフの早期離職や採用のミスマッチ、トラブルなどに直面した経験から、「採用するのが怖い」と感じる院長も少なくないのが現状です。

※1 出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年7月)について」の「参考統計表」表7-1(常用パート含む)
※2 出典:「開業医白書2024」:調査対象/全国の30~90代の医科の開業医500人、調査期間/2024年10月22日(火)~11月11日(月)、調査方法/インターネットでのパネル調査

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クリニックの「採用面接」でやってはいけないこと

およそ2人に1人の開業医が「スタッフの採用」に悩んでいる背景には、採用面接が一因となっている可能性があります。

少人数体制で運営されるクリニックでは、院長が採用面接から採用決定までを一手に担っているケースが少なくありません。日々の診療業務に追われる中で、面接準備が十分にできないこともあるのではないでしょうか。

また、院長は医療の専門家である一方で、採用や面接に関する専門的な知見を得る機会が少なく、十分なノウハウが蓄積されていないケースも散見されます。

このような背景を抱えたまま採用面接に臨めば、次のような「やってはいけない行動」を起こしやすくなるため、注意が必要です。

■やってはいけない!失敗行動の例

1. 「給料を払ってやる」的なスタンスを取っている
2. 採用基準があいまいで感覚に頼った判断をしている
3. 面接マナーを守らない

いずれの行動も採用面接の場では応募者の不信感を招き、「ここで働いて大丈夫?」「他院のほうが働きやすいかも」といった疑念を生み、入職意欲の妨げになりかねません。

採用面接は、費用だけでなく時間や労力もかかります。もし思い当たる節がある場合は、せっかくの機会を無駄にしないように早めの改善が求められます。

次から、これらのNGな行動について具体的に見ていきましょう。

クリニックがやってはいけない「採用面接」3つの失敗行動

面接の進め方ひとつで、応募者の印象や入職への意欲は大きく変わります。ここからは、クリニックが「採用面接」で陥りやすいNGな行動を詳しく解説します。

1. 「給料を払ってやる」的なスタンスを取っている

面接官である院長が「給料を払う立場」という意識が強くなりすぎると、知らず知らずのうちに応募者との関係性に偏りを生んでしまうことがあります。この背景には、院長が医療現場での上下関係に慣れていることが一因として考えられます。

しかし、面接はクリニックが応募者を選ぶと同時に、応募者もクリニックを選んでいる「選び、選ばれる場」です。「選ばれる立場」という視点が欠けていると、応募者の心に響かず、選考を辞退されてしまうリスクが高まります。

そのため、以下のような行動には注意が必要です。

  • 腕や足を組む
  • 履歴書ばかりを見て目を合わせない
  • 相槌がない
  • 話をさえぎる
  • パソコンを操作しながら話す
  • 面接時間が極端に短い/慌ただしい
  • 応募者の話を否定する
  • 応募者の質問にきちんと答えない
  • 事前に履歴書・職務経歴書に目を通さない

こうした態度は、本人にそのつもりはなくても、応募者に「双方向のコミュニケーションが軽視されている」と感じさせ、不信感を抱かせるだけでなく、緊張や委縮を招く可能性があります。

また、面接の対応は、たとえ最終的に採用に至らなかった場合でも、応募者にとってのクリニックの印象を大きく左右します。面接での良い体験は、再応募やポジティブな口コミにつながることがあり、応募者が将来的に患者として来院する可能性もあるため、誠実で丁寧な対応が重要です。

詳しくは後述しますが、採用面接では「候補者体験」(応募者が採用プロセス全体を通じて感じる体験や印象)を常に意識して、応募者に「受けて良かった」と思ってもらえるような対応を心がけましょう。

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2. 採用基準があいまいで感覚に頼った判断をしている

求める人物像が明確でないまま面接を行うと、院長の直感や感覚に頼った主観的な判断になりがちです。その結果、応募者に対する評価に偏りが生じ、採用ミスマッチを引き起こす可能性があります。

特に小規模なクリニックではアットホームな雰囲気を重視するあまり、「人当たりが良さそう」「他のスタッフとうまくやってくれそう」といったフィーリングに頼る“人柄採用”が行われる傾向も見られます。

もちろん、人柄は職場の雰囲気づくりにおいて重要な要素ですが、採用面接では、必要なポジションに必要な能力を持った人材を補充することが基本であることを忘れてはなりません。

感覚ではなく、明確な基準に基づいた判断こそが、採用成功への近道です。

3. 面接マナーを守らない

院長の立ち居振る舞いや言葉遣いに礼節が欠けていれば、応募者に不快感を与え、優秀な人材を逃す原因になりかねません。

たとえば、応募者の緊張を和らげようとして、カジュアルすぎる対応をすると、かえって戸惑わせてしまうこともあります。以下のような言動は注意が必要です。

  • ため口・フレンドリーすぎる言葉遣い
  • 過度な雑談やプライベートな話題
  • 服装や見た目へのコメント

こうした対応は、応募者に「この職場は本当に信頼できるのか?」という不安を与えることがあります。

また、より応募者を理解したいという思いから投げかけた質問が、就業差別につながるケースもあります。職業安定法では、以下のような本人の適性・能力に関係のない事項について質問することを禁止しています。

  • 本籍・出生地
  • 家族構成・住宅状況
  • 結婚・出産の予定
  • 宗教・思想・支持政党
  • 尊敬する人物・愛読書
  • 労働組合や社会運動への参加歴 など

これらの質問は、たとえ悪気がなくても選考に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。どのような質問がNGなのかは、厚生労働省が公開している「採用選考時に配慮すべき事項」ガイドラインで確認しておくと安心でしょう。

ただし、応募者の中には「家庭の事情をあらかじめ知っておいてほしい」と考える人もいます。そのため、最後に「伝えておきたいことや質問はありますか?」と一言添えることで、応募者のほうから安心して話せる雰囲気をつくることができます。

なお、面接官から家庭の事情を直接尋ねるのは避けるべきですが、応募者のほうから「聞いてほしい」と申し出があった場合には、入職後の働き方に影響する可能性もあるため、丁寧に耳を傾ける姿勢が大切です。

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クリニックの「採用面接」を成功に導く3つの秘訣

ここでは、スタッフの採用の質と定着率の向上につながる、採用面接のポイントを3つに絞って解説します。ぜひ参考にしてください。

1. 求める人物像を定めて判断基準を明確にする

採用面接の前に、理想のクリニック運営を実現するため、あるいは現状の課題を解決するために、どのような人物が必要かを明確にしておきましょう。判断基準が定まっていれば求める人物像が描きやすくなり、採用のミスマッチを防ぐことができます。

たとえば「リーダーシップを発揮できる人」「リハビリ指導経験のある人」など、クリニックの課題を解消し、運営をスムーズにするために必要な人材像を具体的に描いた上で、採用面接に臨むことが理想です。

このとき、人材を評価する基準づくりの目安となるのが、院長が掲げる価値観や方向性、つまり「経営理念」や「ビジョン」です。これらを整理して言語化し、具体的な判断規準に落とし込むことで、採用面接の精度がぐっと向上します。

自院の方向性や価値観に共感し、一緒に成長していける人材かどうかを見極めることが、採用成功のカギとなるでしょう。

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2. 安心して話せる雰囲気づくりに配慮する

応募者は誰もが緊張しているため、面接の場で言いたいことをうまく言えなかったり、自分らしさを十分に発揮できなかったりすることがあります。

その結果、面接官が本来の人柄や適性を正確に判断できず、優秀な人材を見逃してしまう可能性があります。そのため、採用面接では応募者が安心して話せる雰囲気づくりに配慮しましょう。

そうすることで、「心理的安全性」が担保され、応募者は自分らしいパフォーマンスを発揮しやすくなるだけでなく、面接官も、応募者の本来の魅力や強みをより正確に見極めることができるでしょう。

また、採用面接では「応募動機」「長所・短所」などの定型的な質問に対し、画一的な回答が並んで応募者の個性が見えにくくなることも。

そんなときは、「なぜそう思ったのですか?」と、一歩踏み込んで質問することで、応募者の考え方や価値観を引き出すことができます。応募者に「自分を知ろうとしてくれている」という印象を与えることが、相互理解を深める第一歩となるのです。

3. 自院の魅力を伝えて働くイメージを具現化させる

面接を通じて、「ここで働いたら能力が生かされそう」「他のスタッフの向上心が高くて、成長できそう」といった、応募者が自分の働く姿をイメージできるようになると、採用競合に差をつけ、「選ばれる職場」に一歩近づきます。

そのためには、自院の魅力をしっかり伝えることが重要です。

魅力とは、院長の診療方針やビジョン、経営理念、スタッフの雰囲気、職場環境など多岐にわたります。これらは採用面接の場だけでなく、以下のような事前の情報発信で伝えることも有用です。

  • 求人広告やホームページへの掲載
  • SNSでのスタッフ紹介やインタビューの公開
  • 院内の雰囲気が伝わる写真や動画の発信

採用面接は限られた時間の中で行われるため、事前の情報発信と面接の場を上手に使い分けることが、自院の魅力を効果的に伝えるポイントです。

特にクリニックでは、業務の忙しさから面接時間が短くなりがちなため、給与や勤務条件などの基本情報はホームページなどでわかりやすく掲示しておき、面接では応募者の人物像や価値観、考え方などを深掘りすることに集中 できると理想的です。

こうした工夫により、応募者は働くイメージを具体的に描きやすくなり、マッチング精度の高い人材の応募が期待できるでしょう。

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採用面接に取り組むクリニックが知っておきたいトレンドキーワード

人手不足に悩む多くのクリニックにとって、採用面接は大きな課題です。

ここでは、採用や面接の質を高めるために注目されているキーワードを3つピックアップしました。面接の見直しや改善のヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

心理的安全性

心理的安全性とは、応募者が面接官の反応を恐れたり、恥ずかしいと感じたりすることなく、「安心して話せる」と思える状態のこと。面接で応募者の本音を引き出すために、必ず意識しておきたいキーワードです。

面接官は、「あなたには向いていない」「それは違うのでは」といった否定的な言葉や高圧的な態度は避け、以下のような共感を示す対応を心がけましょう。

  • 明るい表情で挨拶する
  • 自己紹介で場を和ませる
  • 穏やかな表情と相づちで安心感を与える
  • 話をさえぎらず、最後まで聞く
  • うなずきやメモでリアクションを返す
  • 「面白いご意見ですね」と一言添える

こうした配慮が、応募者の本音や魅力を引き出すきっかけになります。

候補者体験

候補者体験とは、応募者が、応募から面接、内定までの選考プロセスで経験する出来事や感情のことを指します。安心して話せる雰囲気づくりのためにも、知っておきたい重要な概念です。

面接官の態度や言動は、採用成功率や口コミに大きな影響を与えます。

応募者が良い体験をすれば、クリニックに対して、「この職場で働き続けたい」「このクリニックの一員として貢献したい」などと好意的な印象を持ち、採用後の定着率やエンゲージメントの向上にもつながります。

たとえ不採用だったとしても、周囲に良い評判を広めてくれたり、自身が患者となって来院してくれたりする可能性もあります。

選ばれる職場

選ばれる職場とは、理念やビジョンへの共感が得られ、労働条件やキャリアアップの仕組みが整っているなど、応募者が「ここで働きたい」と感じる魅力ある環境のことです。

特に売り手市場が続く医療業界では、採用側が「選ばれる職場」になるための努力が欠かせません。「採用する側は応募者を選ぶ立場であり、優位性がある」といった一方的な認識があったとしたら、見直す必要があります。

応募者に選ばれるためには、クリニックの強みや理念を面接で丁寧に伝え、どのような未来をめざしているのかを具体的に説明することが大切です。

採用面接の場でそれらを魅力として伝えることで、応募者の入職意欲を高めることにつながります。

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まとめ

クリニックの成功は院長の医療技術だけでなく、スタッフ一人ひとりの力によって支えられていることを、多くの先生方が日々実感されているのではないでしょうか。

適切な人材の採用と定着率をめざすには、採用面接を「相互理解の場」として捉え、「選ばれるクリニック」になることを意識しながら応募者と真摯に向き合う姿勢が大切です。

また、今回取り上げたスタッフの採用面接をはじめ、人材や組織に関する課題を抱えている場合は、一人で悩まず、専門家を頼ることもお勧めです。

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<文・取材構成>
内藤 綾子(ないとう・あやこ)
ライター。生命保険企業に3年間勤務した後、編集プロダクションにてライターとしての活動を開始。雑誌、書籍、Webで、健康・医療分野およびHR・企業広告・妊娠・出産・育児・教育・生活分野などの企画・記事制作業務に携わる。

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