やってはいけない!スタッフコミュニケーションのNG対応《HR(人事)講座》【第4回】

やってはいけない!スタッフコミュニケーションのNG対応

HRとはHuman Resources(ヒューマンリソース)の略で、日本語では「人的資源」のこと。

昨今では、少子高齢化による労働人口の減少や企業競争力の変化を背景に、人材を「投資すべき資本」として扱う「人的資本経営」が注目されています。人材を“資本”として育てることが、クリニックの安定経営につながる時代。

医療業界でも慢性的な人材不足が深刻化しており、採用や教育といったHR課題に対しては対策を急がなければなりません。

そこで本コーナーでは、クリニック未来ラボ主任研究員で、国家資格キャリアコンサルタントでもあるHR領域の専門家・中村美紀が、全6回にわたって、クリニックでも応用できるHR課題解決のヒントを徹底解説。

第4回のテーマは、「やってはいけないスタッフコミュニケーション」です。

なお、クリニックには院長、スタッフ、患者との間でさまざまな人間関係が存在しますが、この記事では、「院長とスタッフのコミュニケーション」に焦点を当てて解説します。

■専門家プロフィール

クリニック未来ラボ主任研究員
株式会社ギミック執行役員
国家資格キャリアコンサルタント
米国CCE,Inc.GCDF-Japanキャリアカウンセラー
中村 美紀

20年間、現・株式会社リクルートホールディングスのHR・住宅領域において10以上のメディアのクリエイティブ責任者として活躍後、独立。クリエイティブコンサルタントを経て、2022年株式会社ギミック入社。執行役員として編集制作部門を管轄するほか、キャリア研修企画設計から講師までを担当するなど、人材領域でも活動。2025年よりクリニック未来ラボ主任研究員、JOBSマガジン編集長。

クリニックにおけるスタッフコミュニケーションとは?

「スタッフコミュニケーション」とは、スタッフ同士だけでなく、院長とスタッフの間で情報や気持ちをやりとりすることも意味します。

業務の進捗や改善点の共有はもちろん、感謝や賞賛、不安や悩みなども含めて話し合うことで、職場の信頼関係が深まります。

クリニックにおいても重要で、良好なコミュニケーションがあると、次のようなメリットが期待できます。

1.信頼関係の構築

院長とのコミュニケーションが活発な職場では、スタッフの心理的安全性が高まります。心理的安全性とは「安心して意見や疑問を言える状態」のこと。こうした雰囲気があると、意見交換や助け合いが生まれ、信頼関係が深まります。

2.スタッフの育成と定着

感謝や評価を伝えるコミュニケーションは、スタッフに「認められている」「相談できる」という安心感を与え、やる気と成長を後押しします。さらに、業務上の課題をチームで共有し、協力して解決することで、働きやすさが高まり、離職防止にもつながります。

3.業務効率化と医療安全

情報共有が適切に行われると、業務の認識や手順が統一され、ミスや二度手間を防げます。こうした連携は医療安全の基盤となり、診療の質を高めるためにも欠かせません。

4.患者満足度の向上

院長とスタッフの意思疎通がスムーズなら、患者情報の共有や指示の伝達も迅速に行えます。その結果、診療の質が向上し、患者の安心感と満足度が高まります。

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なぜ今、クリニックで「スタッフコミュニケーション」が注目されるのか?

クリニックで「スタッフコミュニケーション」が注目されている背景には、主に次のような要因があります。

1.人材不足と採用難

医療業界は慢性的な人手不足で、採用しても定着しないケースが少なくありません。

実際、全国の開業医を調査した「開業医白書2025」(※)でも、一番の悩みは「スタッフ採用」54.5%と、全体の半数以上が回答。院長やスタッフ間のコミュニケーション不足は退職理由の一因となりやすく、改善が求められています。

2.多職種連携の広がり

今はチーム医療の時代で、院内では医師を中心にスタッフ同士の連携が欠かせません。さらに、薬剤師や理学療法士、ケアマネジャーなど、院外の専門職と関わる機会も増えています。

こうした多職種連携を円滑に進めるには、院内のコミュニケーションが大切です。情報共有が不十分だと外部との連携にも支障が出るため、院長には信頼関係を築き、連携の基盤を整える役割が求められます。

3.他院との差別化

医療業界では競争が進み、クリニックの強みや特徴を打ち出すことがより重要になっています。患者がクリニックを選ぶ際には、診療内容だけでなく「安心感」や「対応の丁寧さ」も判断基準です。その印象を左右する要因の一つが、院長とスタッフのコミュニケーションです。

職場内でコミュニケーションが良好だと、情報共有や連携がスムーズになり、診療方針や対応に一貫性が生まれ、患者は安心感を持てます。

※出典:クリニック未来ラボ「開業医白書2025」

「スタッフコミュニケーション」でやってはいけないこと

クリニック経営では、院長は診療に加えて経営者としての役割も担うため、業務量が膨らみがちです。多忙な上、患者対応を最優先するあまり、やむを得ずスタッフとのコミュニケーションがおろそかになってしまうケースも少なくありません。

しかし、スタッフとのコミュニケーションも、患者対応と同じくらい重要な業務として位置付ける必要があります。院長とスタッフの関係性が良好であれば、業務効率やチーム力の強化につながり、将来的なクリニックの発展へと結びつくからです。

この意識が欠けていると、次のような「やってはいけない行動」に陥りやすくなります。

■やってはいけない!失敗行動の例

「自分のやり方が正しいはず」と決めつけ、スタッフの意見を聞かない
「わかっているはず」と思い込み、説明を省く
「見守る姿勢が必要なはず」と配慮し、スタッフ同士のトラブルを放置する

いずれの行動も、クリニックの日常業務でスタッフの懐疑心を招き、院長に対して「信頼できない」「連携がうまくいかず、働きづらい」といった不信感を生み、離職のきっかけになりかねません。

こうした事態を防ぐために、次に失敗行動を具体的に解説します。

クリニックがやってはいけない「スタッフコミュニケーション」3つの失敗行動

ここからは、クリニックが「スタッフコミュニケーション」で陥りやすいNGな行動を詳しく解説します。

1.「自分のやり方が正しいはず」と決めつけ、スタッフの意見を聞かない

医療行為は医師の指示に従うことが原則です。一方で、受付対応やカルテ整理などの事務・運営業務は、スタッフの工夫が活きる場面も少なくありません。スタッフの意図や理由を確認せず、自分のやり方を押し通すと、関係性に深い溝ができる可能性があります。

特に多職種が働くクリニックでは、認識のズレが起こりやすく、院長が「自分の“当たり前”はスタッフの“当たり前”ではない」と理解していなければ、コミュニケーションがぎくしゃくすることがあります。

例えば、以下のようなケースです。

■ケース例

院長が「この順番のとおりにカルテを整理して」と指示したが、受付スタッフは患者対応をよりスムーズにするため、別の並べ方を提案した。
しかし院長は「なぜ指示どおりにしない? 私のやり方が正しいのに」と疑問を示し、場の雰囲気が険悪になった。

この場合、受付スタッフは自分なりの工夫で業務改善を試みようとしていました。もし院長が「なぜそう思うのか?」と理由を尋ね、業務効率化の意図を確認していれば、険悪なムードを回避できたかもしれません。

診療の安全を守るために院長のリーダーシップは不可欠ですが、「自分のやり方が正しい」という思い込みが強いと、スタッフの意図を理解できず、すれ違いや誤解が起こりやすくなります。

コミュニケーションの基本は傾聴です。スタッフの声に耳を傾けることが、信頼関係を築く第一歩です。

2.「わかっているはず」と思い込み、説明を省く

「長く一緒に働いているのだから、自分の考えは伝わっているはず」という思い込みから説明を省くと、思わぬすれ違いを招きます。スタッフの納得感が得られず、コミュニケーションにブレが生じ、スムーズな業務連携が難しくなることもあります。

例えば、次のようなケースです。

■ケース例

院長が患者の要望に応えて、先進の医療機器を導入した。
「他院との差別化になるのだから、わかってもらえるだろう」と考え、搬入直前に決定事項だけを伝えたところ、スタッフから「導入の理由がよくわからない」「業務の手間が増える」と反発の声が上がった。

目的や背景を共有しなかったことが、協力を得られなかった原因です。

クリニックの業務は、チームで成り立っています。新しいシステムの導入や業務体制の見直しなど、変化があるときは、スタッフへの事前の共有や説明が欠かせません。

どれほど良い取り組みでも、手段だけを伝えて目的や前提を共有しなければ、現場に不安や不満が生じ、協力を得にくくなります。「なぜ必要なのか」「いつから導入するのか」など、要点だけでも共有し、理解を得ることが重要です。

3. 「見守る姿勢が必要なはず」と配慮し、スタッフ同士のトラブルを放置する

診療外のコミュニケーションも、院長の重要な役割です。

スタッフ同士で問題が起きたとき、「見守るほうが良いだろう」「当事者同士で解決したほうが円満だろう」と考えて放置してしまうケースがあります。

これは一見、配慮のように見えますが、場合によっては職場の空気を悪化させ、離職のきっかけになることがあります。結果として、院長への信頼も低下しかねません。

次のようなケースには要注意です。

■ケース例

中堅の看護師同士の人間関係が悪化。会話が減り、業務中の連携にもぎこちなさが見え始めていた。
しかし院長は、「業務は回っているから問題ない」「当事者同士で話し合えば解決する」と判断し、介入を控えた。その結果、関係はさらに悪化し、周囲にも不穏な空気が広がり、最終的に両者とも退職した。

早めに状況を把握し、適切に関与しなかったことが原因です。

このような場合、「スタッフを信じたい」「自分が介入すると余計にこじれるのでは」という心理が働きがちですが、放置は逆効果です。スタッフからは「無関心」「放置された」と受け取られる可能性があります。

そのため、日常的にスタッフと雑談や業務の振り返りを行い、雰囲気の変化に気づけるようにしましょう。トラブルの兆しを感じたら双方の意見を丁寧にヒアリングし、必要に応じて早めに対応することが大切です。

こうした柔軟な関与は、信頼関係を強め、職場の安定につながります。

「スタッフコミュニケーション」を成功に導く3つの秘訣

スタッフとの良好なコミュニケーションは、離職防止や患者満足度向上に影響します。ここでは、院長がスタッフとのコミュニケーションを深めるための、3つのポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。

1.理念を伝えて、コミュニケーションの基盤をつくる

スタッフとのコミュニケーションを深める第一歩は、院長が理念やビジョンを自分の言葉で伝えることです。

「何のために、患者にどのように貢献するか」という共通の目標や価値観を示すことで、スタッフは仕事の意味を理解し、院長との方向性が一致します。その結果、信頼関係が深まり、チームとしての連携も強化されます。

ただし、理念は抽象的になりがちです。たとえば「地域医療に貢献する」だけでは、スタッフが行動に移しづらく、不十分です。「日々の診療で患者に安心感を与えることが理念の実現につながる」というように、スタッフが日常業務で実践できるよう、具体的な言葉で説明しましょう。

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2.共通のゴールで認識をそろえ、信頼関係を深める

理念だけでなく、クリニック全体でめざす具体的な目標を共有することも有用です。この取り組みを「ゴールの共通化」と呼びます。

理念は抽象的な価値観(長期的)ですが、ゴールはそれを実現するための具体的な行動指針(短期的)です。

まず院長が全体の目標を示し、その上でスタッフが役割に沿ったゴールを設定できるようにします。たとえば、患者満足度向上を目標にするなら、看護師は説明のわかりやすさ、受付は待ち時間の案内など、具体的な指標や数値を入れると効果的です。

こうしたゴールの共有は、スタッフとの会話を「指示」から「協力」へと変え、信頼関係を深めるきっかけになります。​‌

3.相談ルートや権限を明確にし、風通しの良い環境を整える

院長とスタッフのコミュニケーションを円滑にするためには、「誰に相談すれば良いか」がわかる体制づくりが重要です。スタッフが10人を超えると、院長が全員に直接対応するのは難しくなり、意見を伝えづらい雰囲気が生まれがちです。

そこで、院長→主任やベテランスタッフ(現場のまとめ役)→スタッフという指示命令系統を整理し、情報の流れと権限を明確にすることで、院長の考えが効率良く伝わるだけでなく、責任範囲がはっきりし、現場での判断スピードが上がります。さらに、スタッフも「誰に相談すれば良いか」が明確になり、安心して意見を出せる環境が整います。

さらに、「困ったことがあれば遠慮なく話してね」「小さなことでも相談していいよ」など、院長から声をかけることがポイントです。こうした言葉があるだけで、スタッフは心理的ハードルを下げやすくなります。

この仕組みと雰囲気が整うと「風通しの良いクリニック」が実現し、コミュニケーションが活性化します。情報経路が整理されることで誤解や伝達漏れが減り、意思疎通のスピードと質が大きく高まります。

スタッフコミュニケーションのトレンドキーワード

院長とスタッフが対話し、協力し合える環境をつくるために、注目すべきキーワードをご紹介します。

心理的安全性

「心理的安全性」とは、組織やチームの中でスタッフが安心して自分の意見や考えを伝えられ、ミスを恐れずに行動できる状態のことです。

院長が率先して意見を歓迎する姿勢を示すことで、スタッフは話しやすくなり、信頼関係が深まります。全員が率直に意見を交換し、協力して問題を解決する風土が育てば、働きやすい職場環境が整うでしょう。

その結果、チームワークが向上し、スタッフの定着率も高まります。こうした取り組みは、クリニック全体に穏やかな雰囲気を生み出し、患者にも良い印象を与えます。

内発的動機づけ

「内発的動機づけ」とは、自分の興味や関心、喜びといった内面の意欲に基づいて行動し、活動にやりがいや達成感を見出す状態のことです。

この動機づけが高まると、スタッフは指示待ちではなく、自発的に仕事に取り組むようになります。その結果、表面的なやりとりではなく、目的意識を持った質の高いコミュニケーションが増え、チーム全体の活性化につながります。

こうした前向きな姿勢は、クリニックの雰囲気を明るくし、患者にも良い印象を与えるでしょう。

チームビルディング

「チームビルディング」とは、スタッフ一人ひとりがスキルや能力、個性を最大限に発揮しながら、目標を達成できるチームをつくる手法を指します。

スタッフの強みを生かし、成長を促すことが目的です。共通の目標を持つことで進む方向性が明確になり、チーム内の信頼関係が深まります。その結果、組織内のコミュニケーションが活性化し、協力し合える職場環境が整います。

まとめ

院長とスタッフのコミュニケーションは、職場環境の土台をつくり、業務の質や患者満足度にも大きく影響します。院長が率先して情報共有を行い、スタッフ同士の相互理解を深めることで、チームとしての医療サービスの質が向上し、結果としてクリニックの持続的な成長につながるでしょう。

また、今回取り上げたクリニックの理念の運用法をはじめ、人材や組織に関する課題を抱えている場合は、一人で悩まず、専門家を頼ることもお勧めです。

クリニック向け総合サービスプラットフォーム「ドクターズ・ファイル」が提供する「人事の外来」サービスでは、人事(HR)の専門家から、人材採用や育成、評価、組織開発、スタッフとの信頼関係の構築などへのアドバイスが受けられます。

人事に関するお悩みやご相談がある方は、ぜひ一度、「人事の外来」へお問い合わせください。

■お問い合わせ先
ドクターズ・ファイルが提供する「人事の外来」窓口
メールアドレス:contact_hr@gimic.co.jp
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<文・取材構成>
内藤 綾子(ないとう・あやこ)
ライター。生命保険企業に3年間勤務した後、編集プロダクションにてライターとしての活動を開始。雑誌、書籍、Webで、健康・医療分野およびHR・企業広告・妊娠・出産・育児・教育・生活分野などの企画・記事制作業務に携わる。

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