クリニックにおける理念の意味や意義
まずは、理念がクリニック経営にどのような役割を果たすのか、その本質と重要性について解説していきます。
そもそも理念とは――Mission / Vision / Values の構造と意味
理念とは、クリニックが存在する意義と、大切にしたい価値観、そして実現したい未来を言葉にしたものです。単なるスローガンではなく、経営の根幹となる指針といえます。
理念を効果的に活用するためには、まずMVV(Mission・Vision・Values)の構造を理解することが重要です。
- Mission(使命・存在意義)
クリニックが社会に対して果たすべき役割や責任を表すもの。「なぜ存在するのか」「何のために医療を提供するのか」という根本的な問いに答える
- Vision(将来像・目標)
クリニックがめざす理想的な未来の姿を描くもの。「どのような医療機関になりたいのか」という方向性を示す
- Values(価値観・行動規範)
日々の診療や運営において大切にする価値観や行動の基準を定めるもの。スタッフ全員が共有すべき判断軸となる
これら3つの要素が有機的に連携することで、クリニック全体に一貫性のある方針が生まれ、患者やスタッフに対して明確なメッセージを発信できるようになります。
理念と診療方針の違い
開業医の間で、理念と診療方針の違いが明確に整理されていないケースも見受けられます。
- 診療方針
診療方針は「WHAT(何をするか)」に焦点を当てた技術的・医学的なアプローチを示します。例えば、「最新の内視鏡技術を用いた精密検査を行う」「西洋医学と東洋医学を融合させた統合医療を提供」などです。
- 理念
一方、理念は「HOW(どのように)」「WHY(なぜ)」に焦点を当てた価値軸を表現します。「患者一人ひとりに寄り添うために対話を大切にする」「地域の健康を支えるために予防医療を重視」といった根本的な価値観です。
診療方針は理念に基づいて決まっていくものです。理念を深く理解することで、技術面だけでなく、人間性や価値観の面でも、患者や求職者から信頼されるクリニックを築くことができます。
もし両者を混同してしまうと、クリニックの本質的な価値が伝わらず、「何を大事にしているクリニックなのか」が不明瞭になってしまいます。その結果、患者やスタッフからの信頼を得ることが難しくなる可能性があります。
クリニックに理念が必要な3つの理由
理念が、患者・求職者・スタッフそれぞれにどのような価値をもたらすのか、具体的な効果とともに解説します。
【患者向け】ブランディング強化とペイハラ防止
多くのクリニックは、大規模病院ほどの知名度やブランド力を持ち合わせていません。特に開業したてのクリニックは、ゼロから存在価値を築いていく必要があり、ベンチャー企業に似た性質を持っています。
しかし、これは決して不利なことばかりではありません。むしろ小規模組織だからこそ、院長の想いがスタッフ一人ひとりに届きやすく、理念を組織の隅々まで浸透させやすい土壌があるといえます。この強みをうまく活用すれば、患者満足度の向上と経営の安定化に結びつけることができます。
ブランディング効果
明確な理念を持つクリニックは、患者に「信頼できる」「安心できる」という印象を与えやすくなります。患者目線で見た際の具体的な効果は、以下のとおりです。
- 受付スタッフから看護師、そして医師まで、どの接点でも一貫した対応を受けることで、「このクリニックは信頼できそうだ」という安心感が生まれる
- 医療機関を選ぶとき、理念が明確なクリニックは、患者自身が「自分に合っているか」を事前に判断しやすく、来院前から良い印象を持ちやすい
- 来院前に抱いた期待と実際の診療体験が一致すると、患者の記憶に好印象として残り、信頼関係が生まれ、やがてブランディングへとつながる
ペイシェントハラスメント(ペイハラ)への対策効果
クリニック未来ラボの別の調査(※)では、開業医の71.2%がペイシェントハラスメント(ペイハラ)を経験している実態がわかっています。
ペイハラとは、患者によるスタッフへの暴言や威圧的な態度などのハラスメントを指し、近年ではスタッフの定着や職場環境の改善において重要な課題となっています。
このような課題に取り組む上で、明確な理念を持つことは有効な対策となります。ペイハラは不公平感や誤解などが原因となるケースが多いため、理念に基づいた対応基準を設けることで、スタッフが安心して働ける環境を整え、行動指針を明確にできます。
具体的には、以下のような効果が期待できます。
- 理念に基づいた一貫した対応により、「誰に診てもらっても同じ質の医療が受けられる」という安心感が生まれ、不公平感からくる不満を防げる
- 明確な基準に沿った説明を受けることで、「なぜこの治療なのか」が理解しやすくなり、誤解や納得感の欠如によるクレームを減らせる
- スタッフが理念に基づいて冷静に対応できる環境が整うことで、患者の不安にも丁寧に向き合え、感情的なトラブルを未然に防げる
- 理念によって守られた診療環境の中で、患者は「きちんと見てもらえている」と実感しやすくなり、不信感や不満の蓄積を防げる
【求職者向け】採用差別化・ミスマッチ抑制による人材確保
クリニック未来ラボが医療従事者700人を対象にした転職調査(※)では、条件面以外で最も重要視されるのは「人間関係」(53.7%)というデータが明らかになっています。
採用活動において、理念を通じて「人間関係の安心感」を事前に共有できることは、求職者に職場の雰囲気をイメージさせ、ミスマッチを防ぐ大きなアドバンテージとなります。
特に人間関係を重視する医療従事者にとって、理念は職場の雰囲気や価値観を事前に知る重要な手がかりです。理念を採用活動に生かすことで、次のようなメリットが得られます。
- 価値観の一致で安心感アップ
理念を明示することで、「どんな人間関係を大切にする職場なのか」「チームワークをどう実践するか」が求職者に伝わり、採用段階で価値観の一致を確認しやすくなる
- 他院との差別化を強化
理念を通じて他院にはない「安心できる環境」「良好な人間関係」といった価値観や職場文化を打ち出すことにより、求職者に「ここで働きたい」と思わせられる
- 入職後のミスマッチ防止
理念に共感できない、あるいは価値観が合わない求職者を採用前の段階で見極められるため、入職後の人間関係トラブルや早期離職のリスクを減らせる
- 長期的な定着を促進
理念に共感し、人間関係を大切にする職場に魅力を感じて入職した人材は、職場への愛着心が強まりやすく、長期的な定着につながる
※出典:クリニック未来ラボ「医療従事者の転職調査」。調査対象:転職経験のある、または転職経験はないが転職を考えたことのある看護師・医療事務・歯科衛生士で、全国主要都市の25歳〜59歳の男女700人/調査方法:インターネットパネル/調査期間:2024年12月18日~2024年12月23日)
【院内スタッフ向け】働きやすさの向上と経営の安定化
クリニックで働くスタッフは院長との距離が近く、コミュニケーションも密で直接的です。そのため、理念や方針は自然に伝わっていると考えがちです。
しかし、実際には日々の忙しさの中で理念が十分に共有されず、スタッフが院長の意図を正しく理解できていないケースもあります。
理念が曖昧だったり、スタッフに十分伝わっていなかったりする状態では、日々の業務での判断に迷いが生じます。「院長は何を求めているのか」「この対応で正しいのか」といった不安が積み重なると、スタッフのパフォーマンスは低下し、仕事へのやりがいも失われていきます。
このような状況が長引けば、離職という形で表面化し、人材不足から経営が不安定になる悪循環に陥る可能性があります。
逆に、理念がしっかりと共有されている組織では、次のような良い効果が生まれます。
- スタッフ全員が同じ価値観を共有することで、チームとしての連携が円滑になる
- 迷ったときに立ち返る基準が明確なため、スタッフが自信を持って行動できる
- 理念に共感しながら働くことで、仕事に誇りとやりがいを感じられる
- スタッフの定着率が高まり、組織として安定した運営が可能になる
クリニックにおける理念の作り方
理念はクリニックの軸となるもの。実効性を持たせるには、感覚ではなくステップを踏むことが大切です。ここでは、理念の策定プロセスと、各段階で活用できるワークシートをご紹介します。
理念作成の5つのステップ
理念作成は一度に完成させるものではなく、段階的なプロセスを経て洗練していくものです。
なお、開業準備段階のクリニックを想定した理念作成の流れをご紹介します。すでに開業されている場合は、スタッフとともに理念を見直すプロセスとしてご活用ください。
このステップは、院長自身が主導して行うことが基本です。理念は、開院時に抱いたビジョンを言語化し、クリニックの軸とするためです。
ステップ1:現状分析と目的設定
まず取り組むべきは、自院の現在地とめざすべき方向性をはっきりさせることです。
クリニックの運営や開業にあたって想定される課題を洗い出し、「自分はどのようなクリニックをめざしたいのか」という問いに向き合います。これが理念作りの出発点となり、その後のすべてのステップの土台になります。
実施内容
- クリニック運営や開業にあたって想定される課題・テーマを整理する(例:将来的なスタッフ採用、患者獲得、他院との差別化など)
- どのようなクリニックをめざしたいのか、理念策定の目的を明確化
- 競合他院の理念を調査し、自院の独自性を検討する
土台作りのポイント
- 自院の強み・弱み、市場の機会・脅威を紙などに書き出して整理する
- 開業予定または現在の地域における患者ニーズや医療状況をリサーチする
- 近隣クリニック5〜10院のホームページで理念を調査し、差別化ポイントを考える(例:「地域密着」が多ければ、「専門性」や「予防医療」を打ち出すなど)
● クリニック運営や開業にあたって想定される課題・テーマ
□ 将来的なスタッフ採用 □ 患者の獲得 □ 地域での認知度
□ 他院との差別化 □ 診療方針 □ その他( )
● 理念策定で達成したいこと(3つまで)
1. __________________
2. __________________
3. __________________
ステップ2:院長の価値観を整理する
次に、理念の核心となる「自分の想い」を言葉にしていきます。理念は、単なる飾りではありません。院長自身の価値観や信念が込められてこそ、スタッフや患者の心に届くものになります。
ここでは、「なぜ医師になったのか」「なぜ開業を決意したのか」「患者にどんな貢献をしたいのか」といった原点に立ち返り、理念の芯となる部分を掘り下げていきましょう。
実施内容
- 「なぜ医師になったか」を振り返る(原点回帰)
- 「なぜ開業したか」という動機を言語化する
- 「患者にどう貢献したいか」という理想像を明確化する
掘り下げのポイント
- 自己対話シート(質問形式)を使って、価値観を掘り下げる
- 医学部時代・研修医時代の原体験を振り返る
- 理想の医師像・クリニック像を文章化する
● 医師になった原点
・どのような体験や想いで医師をめざしましたか?
・医師として最も大切にしたい価値観は何ですか?
・その価値観を大切にするようになった理由は何ですか?
● 開業の動機
・勤務医時代に感じた課題や、もっとこうしたいと思ったことは何でしたか?
・開業によって実現したいことは何ですか?
● 患者貢献の理想像
・患者にとってどのような存在でありたいですか?
・5年後、患者からどのように評価されていたいですか?
・その理想像を実現するために、どんな取り組みをしたいですか?
ステップ3:医療従事者へのヒアリング
理念は院長の思いだけでなく、現場で働くスタッフが共感し、実践できることが重要です。そのため、第三者の視点を取り入れることで、理念の実効性が高まります。
このステップでは、信頼できる医療従事者に理念の素案を見てもらい、率直な意見をもらいます。現場感覚を持つ人からのフィードバックを得ることで、「実際に実践できる理念」へとブラッシュアップできます。
実施内容
- 他の開業医や医師会などの先輩医師に理念案を共有し、率直なフィードバックをもらう
- 開業前の勤務先で関わった看護師など、信頼できる医療従事者に意見を聞く
相談時のポイント
- 具体的な質問例を挙げる(例:「この理念は現場で実践できそうか?」「スタッフとして共感できるか?」など)
- 理念が抽象的すぎて現場で使えない、あるいは具体的すぎて応用が利かない状態になっていないか確認する
- リアルな声をもとに、理念をどう日々の業務に落とし込めるか実践的にイメージする
以下は、現場の声を取り入れた理念ブラッシュアップの実践例です。
■ 実践例:開業医A氏のケース
【相談前の理念案】
「患者様に寄り添う医療を提供します」
【指摘内容】
ベテラン看護師の知人に相談したところ、「『寄り添う』という表現は抽象的で、スタッフが具体的な行動をイメージしづらいかもしれません。より具体的な言葉にするとわかりやすくなります」との指摘を受ける
【改定後の理念案】
「患者様の不安に共感し、丁寧な説明を心がけ、一人ひとりに合わせた医療を提供します」
フィードバックを反映し、スタッフが「説明を丁寧にする」「患者の不安に共感する」など、具体的な行動をイメージできるようにした
ステップ4:MVVドラフト(草案)作成
ここでは、フィードバックを踏まえ、理念を体系的な形に整えていきます。
ステップ3で得た意見を参考に、理念の素案をMVV(Mission・Vision・Values)というフレームワークに落とし込んでいきます。3つの要素に分けて整理することで、スタッフや患者にとってわかりやすく、実践につながる指針になります。
実施内容
- ミッション(Mission=使命)・ビジョン(Vision=めざす姿)・バリュー(Values=価値観)を文章化する
- 理念はホームページや院外配布のパンフレットに掲載されることが多く、広告とみなされる場合があるため、医療広告ガイドラインに違反していないか確認する
- 声に出して読む、第三者に説明するなどし、覚えやすさ・伝えやすさを検証する
文章作成のポイント
- ミッション:「私たちは○○を通じて△△に貢献する」の形で、クリニックの存在意義や社会的役割を表現する
- ビジョン:「○年後に××な医療機関を実現する」の形で、将来的にめざす理想の姿を描写する
- バリュー:「□□を大切にする」の形で、クリニックが日々の活動で重視する価値観を3〜5個挙げる
● ミッション 地域の皆様の健康不安に共感し、わかりやすい説明と丁寧な対応を通じて、予防から治療まで包括的な医療サービスを提供し、健康で安心な生活の実現に貢献する
● ビジョン
2030年までに、地域で最も信頼されるかかりつけ医として、患者様が健康に関する悩みを気軽に相談でき、スタッフ全員が誇りを持って働き続けられるクリニックを実現する
● バリュー
・患者への共感と理解を大切にする
・わかりやすい説明と丁寧なコミュニケーションを大切にする
・チームワークを重視した連携医療を実践する
・継続的な学習と医療技術の向上を大切にする
ステップ5:検証・調整・決定
理念は作って終わりではありません。実際の運用の中で検証し、改善を加えることで、より現場に即した実効性の高いものに育てることができます。
実施内容
- 試行運用期間(1~3ヵ月)で実践テスト
- スタッフや患者の声を収集
- 必要に応じて内容の調整・修正
- 最終決定後、正式に運用を開始
検証のポイント
- 開業後に採用したスタッフが理念を理解・共感できるか
- 患者の反応や満足度に良い影響があるか
- 採用活動で理念を通じて自院の特徴を明確に伝えられるか
● 理念は最初から完璧である必要はない 特に開業時で完璧な理念を作るのは難しいものです。まずは「方向性」を示し、開業後に、スタッフと一緒に育てていく姿勢が重要です。
● 採用時に理念への共感を確認する
特に開業初期に採用するスタッフは、理念をともに磨き上げる大切なパートナー。採用面接では、理念への共感度を重視して選考しましょう。
● 理念は固定ではなく、節目で振り返る
理念は一度決めたら終わりではありません。クリニックの成長や診療内容、地域ニーズの変化に合わせて、節目ごとに振り返ることが大切です。例えば、開業記念日、診療内容の拡充、地域ニーズの変化、経営方針の転換などが好機。頻繁に見直す必要はありませんが、こうしたタイミングで理念が現場に合っているか確認するだけでも十分価値があります。
ここまで、開業準備段階のクリニックを想定した理念作成の流れを解説しました。
なお、紹介した内容は一例であり、クリニックの規模や方針、スタッフ構成などに応じて柔軟に設計することが大切です。
また、自院の方向性を定めるためには、院長の想いやビジョンが軸になります。ただし、それを言語化して理念として整理するのは簡単ではありません。
そのため必要に応じて、開業支援コンサルタントや医療経営の専門家と一緒に整理するのも有効です。
スタッフを意識した理念策定
理念は患者に向けたメッセージであると同時に、スタッフが日々の業務で「何を大切にすべきか」を示す指針でもあります。スタッフが理念を理解し、共感し、実践できるようにするために、以下の3つのポイントを意識してみてください。
1.抽象的な言葉を具体的な行動に落とし込む
理念は抽象的になりがちなため、現場で「どう動けばいいか」がわかるように、行動指針として具体化しておくことが必要です。これが、理念を実践につなげる第一歩になります。
例:「患者様に寄り添う」→「患者様の不安や疑問に耳を傾け、わかりやすい言葉で説明し、安心していただけるまで対応する」
2.各職種の専門性と役割を尊重する
医師・看護師・医療事務・受付など、それぞれの職種が理念をどう実践するかをイメージできる内容にしておくと良いです。職種ごとの役割に応じた行動指針を示すことで、理念が現場に浸透しやすくなります。
3.「押し付け」ではなく「共感できる価値観」をめざす
理念は一方的に押し付けるものではなく、スタッフが共感し、自らの業務に生かしたいと思える価値観であることが望ましいです。
そのためには、以下のような工夫が役立ちます。
- 開業前:院長が理念を考える段階で、元同僚など信頼できる医療従事者に相談し、現場目線のフィードバックを得ておく
- 開業後:スタッフとの対話を通じて理念を磨き上げ、全員が納得できる内容に育てていく
職種別に価値観や行動様式を言語化
理念を実践するためには、職種ごとの具体的な行動指針を明文化することが重要です。
それぞれの職種が、日々の業務の中でどんな行動を意識すれば理念につながるのかを明確にすることで、スタッフ全員が同じ方向を向いて働きやすくなります。
理念を実践に結びつけるため、開業医A氏の理念例をもとに、各職種が意識すべき重点項目と具体的な行動例をまとめました。
| 職種 | 理念実践の重点項目 | 具体的な行動例 |
|---|---|---|
医師 | 診断・治療方針の丁寧な説明、患者との信頼関係の構築 | ・専門用語を使わない、わかりやすい説明 |
看護師 | 患者ケアの質向上、医師と患者の橋渡し | ・処置前の声かけと安心への配慮 |
医療事務・受付 | 来院時の安心感を与える対応、円滑な診療サポート | ・明るい挨拶と笑顔での対応 |
実践的な理念パターン例
自院に合った理念を検討する際の参考として、医科・歯科それぞれの代表的なパターンと、その理念がスタッフ、求職者、患者に与えることが期待できる印象をまとめました。
医科クリニック向け理念パターン例
| 理念パターン | 理念の文例 | スタッフ印象 | 求職者印象 | 患者印象 |
|---|---|---|---|---|
寄り添い・伴走型 | 「患者に寄り添い、健康への歩みをともに支える医療を提供します」 | 共感を大切にし、患者に寄り添える環境 | 安心して働ける、温かい雰囲気のある職場 | 丁寧に寄り添ってくれる心強さと信用 |
聴く・応える・期待を超える型 | 「患者の声を聴き、応え、期待を超える医療をめざします」 | 傾聴と応答を大切にする前向きな姿勢 | コミュニケーションを生かし成長できる環境 | 声をしっかり聴いてくれる誠実さと信頼感 |
地域密着・かかりつけ型 | 「地域のかかりつけ医として、いつでも頼れる医療を提供します」 | 地域に貢献できるやりがいを感じる風土 | 患者と信頼を築き、地域に根差す安定感 | 身近で頼れる安心感と親しみ |
安全・質重視型 | 「すべての患者に安全で質の高い医療を提供し、地域の健康を支えます」 | 安全性と質を誇りにできる文化 | 高水準の医療を提供できる誇りと安心感 | 安全で質の高い医療を受けられる確かさ |
相互尊重・公平性型(ペイハラ防止) | 「患者・スタッフ双方が安心できる、公平で尊重し合える診療環境を築きます」 | 安心・尊重・毅然とした対応を支える姿勢 | 不当な要求に左右されない、働きやすい体制 | 思いやりと偏りない対応が生む納得感と信頼感 |
歯科クリニック向け理念パターン例
| 理念パターン | 理念の文例 | スタッフ印象 | 求職者印象 | 患者印象 |
|---|---|---|---|---|
予防中心・口腔全体型 | 「治療から予防へ。口腔全体の健康を長期的に支えます」 | 予防を重視し、患者と長く関われるやりがい | 予防中心で信頼を築ける前向きな職場 | 将来にわたり健康を守ってくれる安心感と信頼 |
痛み配慮・安心型 | 「痛みの少ない治療と丁寧な説明で、安心して通える歯科医院をめざします」 | 安心を届ける丁寧なケアを重視する風土 | 患者ケアを重視できるやりがいある職場 | 不安を和らげてもらえる頼もしさと安心 |
美と機能両立型 | 「美しさと機能性の両立を追求し、患者さんの豊かな人生をサポートします」 | 美しさと機能性を考えた提案を重視する文化 | 専門性を生かしキャリアを築ける環境 | 美と機能の両立に信頼を寄せられる満足感 |
安心環境・敬意型(ペイハラ防止) | 「すべての方が安心できる治療環境を守るため、互いに敬意を持った関わりを大切にします」 | 互いに敬意を持ち、安心できる治療環境 | 威圧や妨害を排し、信頼関係を重んじる職場 | 安心できる医療環境と、互いの敬意と信頼 |
理念導入でよくある失敗と対策
理念を作ったものの、現場でうまく機能しないという声もしばしば聞かれます。ここでは、よく見られる失敗のパターンと、その対策をご紹介します。
抽象的すぎて実践できない失敗
失敗内容
理念が美辞麗句に終始し、スタッフが日々の業務でどう行動すべきかわからない
人間関係への影響
スタッフ間で共通理解が得られず、連携が取りづらくなる
原因
策定時に現場での実践方法を具体化していない
対策
理念をスタッフの行動指針や評価項目に具体化し、日常業務に結びつける
院長の独りよがりになる失敗
失敗内容
院長の価値観や経験だけで決めてしまい、スタッフの納得感が得られない
人間関係への影響
納得感がないまま理念が押し付けられ、スタッフとの関係がぎくしゃくし、モチベーション低下につながる
原因
策定プロセスでスタッフの意見や価値観を取り入れていない
対策
理念策定の段階からスタッフを巻き込み、ワークショップやミーティングで意見を集め、全員で作り上げる体制を整える。まだスタッフがいない立ち上げ時には、知り合いの同業者や医療従事者の声を参考にし、現場視点を取り入れる
作って満足してしまう失敗
失敗内容
理念を作っただけで満足し、日常業務で活用されず形骸化してしまう
人間関係への影響
スタッフの信頼感や一体感が薄れ、業務改善や接遇向上など、職場を良くするための提案や協力が生まれにくくなる
原因
理念を浸透させる継続的な仕組みがない
対策
院内掲示や朝礼での唱和など、業務連絡で理念を繰り返し共有する仕組みを作る
クリニック理念を生かすための3つのアプローチ
理念は院内に浸透させ、患者や求職者に伝わることで初めて価値を発揮します。
ここでは、理念を組織に根づかせ、日々の業務や採用活動、患者対応に生かすための具体的な方法を3つの視点から解説します。
【患者向け】患者・地域に理念を伝える方法
理念を患者や地域に向けて発信することで、クリニックの特徴や価値観を明確に伝え、共感してくれる患者との出会いを生み出します。
- クリニックのホームページの院長挨拶や医院紹介ページで理念を掲載し、来院前にクリニックの価値観を知ってもらう
- 待合室や診察室に理念を掲示し、来院時に目に触れる環境を整える
- 受付から看護師、医師に至るまでの対応の流れを理念に基づいて統一し、患者に一貫した印象を与える
- 理念に沿った対応基準を明確にすることで、「このクリニックは患者を大切にしている」という安心感を伝える
【院内スタッフ向け】スタッフに理念を浸透させる工夫
理念を日常業務に自然に組み込むことで、スタッフ全員が共有しやすくなり、職場文化として定着していきます。人間関係の改善やコミュニケーションの質向上にもつながる取り組みとして、以下のような工夫が効果的です。
- 更衣室やスタッフルームなど、スタッフが日常的に目にする場所に理念を掲示し、意識づけを図る
- 朝礼で理念を唱和し、その後1分程度のスピーチで「理念に基づいた行動例」を共有する
- 人事評価に「チームワーク」「他者への配慮」「コミュニケーション力」といった理念に関連する評価項目を組み込む
- 新人研修で理念の背景を説明
- 定期的に理念をテーマにしたワークショップやミーティングを開催し、理念を自分の業務にどう生かすかを話し合う機会を作る
【求職者向け】採用活動で理念を示すポイント
採用活動において理念を効果的に提示することで、価値観の合う人材を引き寄せ、入職後のミスマッチを防ぐことができます。
- 求人票や採用サイト、面接で理念を紹介し、「どのような価値観を大切にする職場か」「人間関係をどう築いているか」を具体的に伝える
- 面接時の質問で、求職者の価値観が理念と合っているか確認する
- 前述のとおり、医療従事者の求職者は「働きやすい人間関係」を重視する傾向がある。そこで、このテーマを面接での質問や職場紹介に取り入れる(例:「困ったときに相談しやすい雰囲気」「チームで支え合う文化」など)
- 面接後に院内を案内し、理念掲示やスタッフの対応など、理念が現場でどのように生かされているかを見てもらう
クリニックの理念に関するよくある質問(Q&A)
Q:クリニックの理念を作るべきタイミングはいつ?
A:最も効果的なタイミングは「開業前」です。開業準備の段階で理念を明確にしておくことで、スタッフ採用や院内体制の構築において、方向性を共有しやすくなります。
ただし、クリニックの場合、開業後に理念を策定するケースも少なくありません。そのため、特に以下のような状況では、理念の策定をお勧めします。
- スタッフの離職率が高い
- 採用時に自院の特徴をうまく説明できない
- 患者満足度が低下している
- 組織が拡大し、方向性の統一が求められている
こうした課題が顕在化してからでも、理念の策定は改善のきっかけとなり、効果が期待できます。フィードバックを生かしながらブラッシュアップしていくことで、組織の一体感や働きがいのさらなる向上につながるでしょう。
Q:開業後ですが、理念策定にスタッフは参加してもらうべき?
A:はい、スタッフを積極的に巻き込むことをお勧めします。
スタッフを理念策定に参加させることで、現場の実情を反映した、実践的で納得感のある理念が生まれます。
また、策定過程での意見交換や議論を通じて、スタッフの理解と共感が深まり、理念の浸透もスムーズになります。理念が「上からの押しつけ」ではなく、「自分たちの言葉」として受け止められるようになるのです。
最終的な決定権は経営者が持ち、明確なリーダーシップを示すことも重要です。スタッフの声を尊重しつつ、クリニックの方向性をしっかりと示すことで、理念が組織の軸としてしっかり機能します。
なお、人数が多い場合は、全員の意見を集めるのが難しいため、リーダーやベテランスタッフを中心に参画してもらうと良いでしょう。
Q:スタッフが理念に共感しない場合、どうすればよい?
A:まずは、スタッフとの対話を重視しましょう。理念の背景や意図を丁寧に説明することで、理解のきっかけを作ることができます。
そのうえで、理念が一方的な内容になっていないか、現場の実情と乖離していないかを見直すことも重要です。必要に応じて、スタッフの声を反映しながら理念を修正する柔軟さも求められます。
共感を強制するのではなく、理解を深める機会を継続的に提供することが大切です。ミーティングや日々の業務の中で理念に触れる場を設けることで、少しずつ浸透し、現場に根づいていくでしょう。
まとめ
冒頭でも触れたように、54.5%もの開業医がスタッフ採用に悩む今、理念は“飾り”ではなく、実践的な経営ツールです。医療従事者の多くが重視する「人間関係」を理念で伝えることで、安心できる職場づくりにつながり、採用成功の鍵となります。
また、理念は少人数の組織こそ浸透しやすく、経営の軸として機能し、満足度にも影響します。
理念の策定と浸透には時間も手間もかかりますが、これはクリニックの未来を支える大切な土台です。じっくり取り組むことで、患者満足と人材確保の両立を後押ししてくれるでしょう。(クリニック未来ラボ編集部)
◇ ◇ ◇
今回取り上げた理念策定をはじめ、人材や組織に関する課題を抱えている場合は、一人で悩まず、専門家の力を借りることも選択肢の一つです。
クリニック向け総合サービスプラットフォーム「ドクターズ・ファイル」が提供する「人事の外来」では、人事(HR)の専門家から、人材採用・育成・評価・組織開発・スタッフとの信頼関係構築などに関するアドバイスを受けることができます。
人事に関するお悩みやご相談がある方は、ぜひ一度「人事の外来」へお問い合わせください。
<執筆者プロフィール>
クリニック未来ラボ編集部
クリニック未来ラボは、開業医、開業を目指す勤務医・医学生に向けたクリニック経営支援メディアです。独自の視線で調査・研究し、より良い医院経営に役立つ情報として発信。「開業医白書」をはじめ、診療報酬改定や医師の働き方改革、医療従事者の転職動向など、医院経営に関する調査レポートも公開しています。