クリニック理念は本当に必要?採用・定着に欠かせない理由《人事の外来お悩み相談室》【第3回】

クリニックの理念は必要?採用・定着にどう影響?

「スタッフがすぐ離職してしまう」「適正な給料の決め方がわからない」「マネジメントって何をすればいいのだろうか?」

クリニック経営において最大の悩みの種となるのが、「ヒト」に関すること。

本コラムでは、なかなか相談しづらいクリニックの「ヒト」にまつわる課題に数多く向き合ってきた専門家が、人材採用や育成、組織づくりなどの悩みに答えます。

第3回のテーマは、「クリニック理念は採用やスタッフ定着にどう影響する?」 です。

■専門家プロフィール

株式会社ギミック執行役員 HR事業部門
「人事の外来」人事の相談窓口担当
寺内 隆央

1993年株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。新卒採用に苦悩する企業へ、前例にとらわれない画期的な採用スキームを提案、実装。さらに、企業規模を問わず、人材の採用全般や育成・評価制度策定までも手がけ、人材の育成や定着を通して企業の成長に貢献する。その後営業コンサルタントとして、大手人材企業やIT企業などの組織づくりに従事。将来の「組織の成長」まで見据えた人材の育成や組織の構築が高い評価を得る。

HRコンサルチーム アカウントマネージャー
「人事の外来」人事の相談窓口担当
髙野 祐介

2014年に株式会社ギミックに入社後、ドクターズ・ファイルの営業活動に従事。開業医が抱えるクリニック経営や人事の課題に直に触れ、その多様さを実感する。2020年以降は営業企画部長や営業部長として組織マネジメントや人材育成にも尽力。マクロとミクロ双方の視点で組織力強化に貢献する。現在は「クリニックの人材育成」を支えるHRコンサルチーム責任者として、ドクターズ・ファイル クリニコを活用した人事評価制度を多数のクリニックへ導入。

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この記事でわかること

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理念の必要性がわからないCクリニックのお悩み

今回は、「経営理念って本当に必要?」「スタッフの定着率との関係は?」「現場でどう生かせばいい?」といった疑問を持つCクリニックのお悩みを解決します。

〈Cクリニック〉

地方都市で開業6年目の内科・小児科クリニック。地域のかかりつけ医として親しまれ、患者は家族世帯や高齢者が中心。スタッフは7人で若手が多く、診療は回っているものの、忙しさから育成に手が回らず、1~2年での離職が続いている。理念は開業時に作成したが、共有や活用はされていない。

理念が現場でうまく機能せず、人材が定着しない

さっそく、Cクリニックから寄せられた悩みを見ていきましょう。

近年、スタッフの採用・定着に悩むクリニックは少なくありません。Cクリニックも同じ課題を抱えていました。

スタッフを採用しても長く続かず、院内の雰囲気も落ち着かないんです。業務は回っているけれど、チームとしての一体感に欠けているように感じます。

院長として自分自身では頑張っているつもりですが、忙しさに追われ、スタッフ育成まで手が回らず、リーダーも育っていません。

先日、友人の開業医からこんな話を聞きました。

「うちでは半年に1回の研修会で、スタッフと一緒にクリニックの理念や院長の想いを確認する時間をつくっているんだ」

その言葉を聞いて、ハッとしました。もしかして、うちのスタッフが定着しないのは、理念が浸透していないからなのでは?

開業時に理念はつくり、ホームページにも載せています。でも正直、他院の事例を参考に“何となく”まとめたもので、スタッフに改めて伝えたこともありません。

理念って、本当に必要なのでしょうか? そして、どうすれば現場で生かせるのでしょうか?

クリニック理念の重要性|採用・定着・組織運営にどう影響する?

理念は、スタッフが働く目的や組織の方向性を理解するための重要な指針です。つくるだけでは意味がなく、スタッフに浸透して初めて力を発揮します。

しかし、Cクリニックのように、開業時に理念をつくったまま活用されていないケースは、意外と少なくありません。

理念の重要性を院長が理解し、スタッフに十分に浸透させられない場合、仕事の価値や進むべき方向が不明確になり、採用・定着・組織運営に悪影響を及ぼします。

主なリスクは、次のとおりです。

  • 採用面:理念が伝わらないと、クリニックの特徴や診療方針が応募者に理解されず、給与や条件だけで判断されるため、ミスマッチ採用が増える
  • 定着面:スタッフが働く意味を見失いやすく、モチベーション低下や離職率の上昇につながる
  • 組織運営面:判断基準が統一されず、院長への確認が増えて業務が滞り、業務効率が悪化する
まずは院長自身が、理念の重要性を理解することが第一歩です(寺内)
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理念が浸透しないと起きる5つの問題

理念の活用が採用・定着・組織運営を左右することは、上で触れました。

ここでは、理念が浸透していないことで起きるデメリットを、より詳しく見ていきましょう。代表的な5つを挙げます。

1.スタッフの行動に一貫性がなくなる

理念が浸透していない場合、院内で統一された判断基準がないため、スタッフは独自の判断で動いてしまいます。その結果、患者対応にムラが生じ、チームとしての連携にも支障を来します。

2.職場の一体感が生まれにくい

スタッフ一人ひとりに理念が根づいていないと、共通の価値観を持てず、信頼関係が築きにくくなります。そのため、チームワークや一体感が弱まり、協力体制が不十分になりがちです。

3.採用・定着が不安定になる

院長が理念の重要性を認識しておらず、「理念への共感があるかどうか」という観点で採用基準を設定していない結果、理念への共感がない人材が入職することで、早期離職やミスマッチが起きやすくなります。

4.患者に選ばれにくくなる

クリニック経営の指標となる「理念」は、“そのクリニックらしさ”を示すものです。

しかし、理念がスタッフの対応や立ち居振る舞いに反映されなければ、クリニックの強みや独自性が患者に伝わらず、他院との差別化ができません。その結果、患者に選ばれる理由が弱まり、患者とのマッチング精度の低下につながります。

5.院長が孤独な経営に陥りがち

院長が抱く「こんなクリニックにしたい」「スタッフにはこう成長してほしい」という想いが、理念を通じて共有されないと、スタッフとの温度差が広がります。結果として、院長が一人で悩みや課題を抱え込みやすくなり、孤独な経営に陥るリスクが高まります。

離職率が高いなら、理念の浸透度を見直したり、クリニックの状態を客観的にチェックしたりしてみるのも一つの方法です(髙野)
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相談から見る「クリニック理念」の課題6選

Cクリニックの相談から見えてきたのは、理念が現場でうまく機能していないという現実です。では、具体的にどのような課題があるのでしょうか。

1.理念が“掲げるだけ”になっている

せっかく理念をつくってホームページやパンフレットに載せていたとしても、日々の診療の中で生かさなければ、“掲げるだけ”で形骸化してしまいます。理念は診療現場での具体的な行動につながってこそ、意味があるのです。

また、チームとしての行動目標や価値観が曖昧だと、結束力が生まれず、忙しさや不満が募ったときに「続ける理由」が見つかりにくくなります。

2.院長自身が理念の意義を認識できていない

理念は、クリニックのめざす方向性や使命を言語化した、経営の指標となるものです。しかし、その重要性を認識せずに「“何となく”まとめた」だけでは、スタッフには響かないでしょう。

自分の言葉で理念を語れない院長は、現場で判断軸を示せず、組織の一体感を失いやすくなります。

3.スタッフが理念を“経営者だけのもの”と捉えている

院長から理念がきちんと説明されていないことで、スタッフが「それって院長の考えでしょう?」と他人事になっている可能性があります。

スタッフが理念を自分の行動指針として捉えていなければ、日常業務での判断や連携にズレが生じ、協力体制が弱まりやすくなります。

4.人材の採用基準と理念が連動していない

Cクリニックの場合、日頃から院長がスタッフに理念を伝えられていない様子から、採用面接でも理念をしっかり説明できていないと考えられます。

クリニックという限られた人数で運営する組織では、同じ目標に向かい、同じ温度感で進むことが重要です。そのためには、採用基準と理念を連動させる必要があります。

入職前に何を大切にする職場なのかを求職者に理解させられなければ、価値観のズレが生じやすく、入職後のミスマッチにつながる恐れがあります。

5.理念に沿った行動を評価する仕組みがない

理念を評価制度に組み込み、定期的にフィードバックする仕組みがないため、スタッフは理念を自分事として捉えにくくなります。その結果、行動の方向性が不明確になり、モチベーションや育成にも悪影響を及ぼします。

この状態が長く続くと、院長との間でめざす行動にズレが生じ、スタッフのやる気の低下や離職につながるリスクが高まります。

6.理念を確認する場がない

Cクリニックのように、忙しくてスタッフと腰を据えて話す時間が取れない、という院長は少なくないでしょう。しかしスタッフに同じ方向を向いて働いてもらうには、意識的に、理念を伝える機会をつくることも必要です。

こうした場がないと、スタッフの方向性が揃わず、組織の一体感が失われる恐れがあります。

現場で理念が生きていないと、このような課題が発生しがちです(寺内)
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「クリニック理念」をうまく活用するための専門家アドバイス

「人事の外来」として数多くのクリニックへ向き合ってきた専門家の二人が、今回Cクリニックから寄せられたお悩みの「どうすれば理念を現場で生かせるか」について詳しく解説します。

理念は“行動指針”に落とし込む

髙野:他のクリニックを参考にして“とりあえず”つくった理念だと、現場ではなかなか力を発揮できません。理念は、スタッフが「どのような行動を取れば理念に沿えるのか」をイメージできるよう、具体的に言語化することが大切です。

寺内:そのためには、スタッフの人事評価制度とひもづけることが重要ですよね。

理念をスタッフの“行動指針”として落とし込んで、その行動に対して評価・フィードバックする仕組みづくりが大切。そうすれば自然と、理念を診療現場での具体的な行動につなげることができると思います。

看護師や医療事務、受付などクリニックで
働くスタッフを適切に評価・管理

ドクターズ・ファイル クリニコ

理念を“見える化”して日常に溶け込ませる

髙野:理念を浸透させるためには、院内掲示やクレドカードの配布、評価基準に組み込むなど、スタッフが日常的に意識したり、目にしたりする工夫を取り入れると効果的でしょう。

寺内:理念は「何をめざして、この職場で働くのか」を示す指針です。これが浸透していないと、スタッフは業務を“ただの作業”と感じやすく、やりがいを失ってしまいます。

だからこそ、理念を“見える化”して日常に自然と溶け込ませることで、スタッフの意識を高め、仕事に意味を感じられる環境をつくることが大切です。

理念をテーマにした研修を定期開催

寺内:普段の業務の中で理念を意識する工夫も大切ですが、理念についてじっくり話し合う場をつくることも有効だと思います。

髙野:例えば、診療後やスタッフミーティングの時間を使って、理念をテーマにした研修や意見交換を定期的に行うといいですね。短時間でも構いませんので、負担にならない形で実施することがポイントです。

こうした場があることで、理念がより深く浸透し、現場で“生きたもの”になるはずです。

採用時に“理念への共感”を見極める質問を入れる

寺内:理念が採用基準に組み込まれていないと、応募者は条件だけで判断しがちです。採用側もスキル重視になり、自院に合わない人材を選んでしまうことがあります。

早期離職やミスマッチを防ぐためには、採用面接の時点で「理念への共感があるかどうか」という視点を持つことがカギです。採用面接は、価値観のすり合わせの場ですからね。

髙野:求職者が大切にしている価値観や、それに関する具体的なエピソードを聞くことで、“理念への共感の有無”を見極めましょう。

今日からできることを一つずつ始めてみましょう(髙野)
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クリニックの理念浸透に関するよくある質問(FAQ)

理念の重要性や浸透方法について、現場で迷う方は多いです。ここでは、その疑問に答えるFAQをご紹介します。

Q.理念って本当に必要?クリニックの成長に関係ある?

A. 理念はクリニックの成長に欠かせません。採用や定着、経営判断、患者の信頼に直結する“経営の軸”です。近年は医療機関でも理念を重視する動きが広がっており、理念がないと判断がブレやすく、組織の成長に影響します。

Q.理念をつくったものの、スタッフに伝えるタイミングがわからない。

A.理念はできるだけ採用時に伝え、入職後は朝礼や面談など日常の場でも繰り返し共有するようにしましょう。さらに、月1回のミーティングなど、理念を話す専用の時間を設けると浸透しやすくなります。

ただし、浸透方法はクリニックによって異なるため、自院に合ったやり方をスタッフと話し合うことが大切です。

Q.理念を浸透させるために、どんな仕組みが必要?

A.理念をスタッフの行動指針に落とし込み、評価制度と連動させることが重要です。例えば、理念に「患者第一」がある場合、評価項目に「丁寧な説明」「待ち時間への配慮」を入れることで、理念が日常業務に結びつきます。

さらに、日常的に理念に沿った行動を認める文化をつくりましょう。朝礼で「〇〇さんが患者対応で素晴らしい取り組みをしました」と共有するだけでも効果的です。仕組みと文化の両輪が、理念浸透のカギです。

Q.理念に共感していないスタッフがいる場合、どうすればいい?

A.まずは対話で価値観をすり合わせましょう。それでも難しい場合は、役割や業務の範囲を調整して、理念に沿った仕事を中心に任せる工夫をします。

また、そもそも採用面接の段階で理念を説明し、共感がある人材を見極めることも重要です。

Q.理念を変えたくなったら、どう進めればいいの?

A.院長だけで決めず、スタッフと一緒に見直すことで、共感と納得感を得やすくなります。スタッフが多い場合は、全員ではなくリーダークラスのスタッフと相談すると、意見をまとめやすく効率的です。

Q.理念は短期間で何度も変えていい?

A.頻繁な変更はスタッフの混乱を招くため避けましょう。ただし、時代や組織の成長に合わせて理念をアップデートするのは自然なことです。大切なのは、軸をぶらさず言葉や表現を磨いていくことです。

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まとめ

理念の有無や浸透方法に“正解”はありません。しかし、クリニック経営の指針となる理念をスタッフの行動指針に落とし込み、その行動を評価する仕組みがあれば、現場で理念に沿った行動が自然に生まれます。

クリニック全体で理念を共有し、同じ方向をめざすことで、理想の診療体制に近づけます。さらに、スタッフだけでなく患者にも理念を発信することで、他院との差別化が進み、「選ばれるクリニック」につながるでしょう。

ただ、日々診療に忙しくしながら理念について考えるのは、大変なもの。そんなときはプロに相談するのも一手です。

人材や組織のお悩みがあれば、ぜひクリニック向け総合サービスプラットフォーム「ドクターズ・ファイル」が提供する「人事の外来」のような、人材採用や育成、評価、組織開発、スタッフとの信頼関係の構築へのアドバイスが受けられるサービスを活用してみてください。

■お問い合わせ先
ドクターズ・ファイルが提供する「人事の外来」窓口
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