スタッフのモチベを上げ、クリニックを活性化させる3つの条件《役に立つ!コミュニケーションのコツ》

クリニックを活性化させる3つの条件

近い将来、多くの仕事がAIに奪われるといわれ、人同士のつながりが希薄になると考えられています。しかし、患者や医師、スタッフの間でコミュニケーションがゼロになることはありません。医療接遇、スタッフ育成、組織づくりなどさまざまな場面で、むしろコミュニケーションという普遍的な営みを大切にすることこそ、クリニックの未来に向けた付加価値、温かな財産になるのではないでしょうか。

未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、そのためのヒントとなるコラムをお届けします。

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スタッフのモチベーションが高いかどうかは、患者のクリニック選びを左右する要素の一つです。生き生きと仕事をするスタッフを見れば、患者は「感じのいいクリニックだな」と好感を持ちますが、覇気のない様子で対応されると「このクリニック、大丈夫なのかな」と不安になるものです。今回は、スタッフのモチベーションを上げて院内に活気を生むための、3つのポイントについて考えてみましょう。

報酬を上げても、スタッフのモチベーションが上がるとは限らない

スタッフに覇気がない、目の前の仕事をさばくような態度でクレームもある……。こんなとき、スタッフに「やる気を出していこう!」と声をかけても、雰囲気ががらっと変わることはまずありません。自分のモチベーションでさえやすやすと上がらないことを思えば、他人のモチベーションを上げるのはもっと困難なことです。では、どうすればスタッフのやる気が上がるのでしょうか。

やる気を上げる方法として、最もわかりやすいのは「報酬」です。「給料が安いから」という理由でやる気が出ない人であれば、ベースアップすることで効果が見られることもあります。「給料が上がってうれしい。もっと頑張っていこう」とポジティブになれば言うことはありません。しかし、モチベーションの理論からすると、報酬を上げることは最善の策とはいえません

理由は、私たちの要求には際限がないからです。一つ希望が叶えば、次の段階を期待するのが人間の心理です。例えば、子どもに「テストで100点を取ったら、欲しがっていた○○を買ってあげる」と約束すれば、最初は頑張って勉強するでしょう。しかし、次のテストが近づくと「今後は何を買ってもらえるのか」と期待するようになります。このように、報酬という対価を得ることが目的となり、勉強が目的外となっては本末転倒です。 同じように、スタッフの給料を上げてやる気が高まったとしても、それは一時的なものだと考えたほうがいいでしょう。逆に、「これ以上頑張っても、どうせ給料はしばらく上がらない」と、かえってマイナスに受け取られる可能性もあります。

モチベーションを高める3つの条件を満たすことが大切

モチベーションを上げるために必要なのは、報酬のような外側からの働きかけ(外発的な動機づけ)よりも、本人が自ら進んで取り組もうとする気持ち(内発的な動機づけ)を生むことです。そのためには、「自立性・有能感・関係性」の3つが必要だといわれています。この3つの条件についてはご存じの方もいらっしゃると思いますが、頭ではわかっていても実践するのは意外と難しいものです。改めて基本を押さえておきましょう。

モチベーションを高める

(1)「自律感」を持ち、自分で選んだことに取り組む

物事に取り組むとき、その内容や進め方を「誰が選んだか」は大きな要因です。例えば、親が敷いたレールに沿って人生を歩むより、自分が興味のあることを学び、やりたい仕事に就くほうがモチベーションは高まります。

クリニックの業務でいえば、例えばSNSやウェブサイト、院内掲示などの発信をスタッフに任せるとき、内容の詳細を一から十まで上司が指定するのは得策とはいえません。無理のない範囲でアイデア段階から担当してもらうなど、少しずつスタッフの裁量を広げることも大切です。最初のうちはフォローするのに時間や手間がかかるかもしれませんが、スタッフが慣れて自発的に取り組むようになれば本人のモチベーションが上がり、職場の活性化につながります。

(2)成功体験の蓄積により、「有能感」を得る

患者や医師、同僚から感謝の言葉をかけられるなど、うまくいく経験を積めば積むほど、人は手応えややりがいを感じます。「有能感」を得て自信がつけば仕事が楽しくなり、ミスも減り、自分のやり方を後輩に教えるなど、周りへの波及効果も見られるようになるでしょう。そうやって成功体験を重ねて正のスパイラルにはまれば、モチベーションも上がっていきます。

新しく入ったスタッフが仕事に慣れてきたとき、自分の仕事で精いっぱいだったスタッフが新人に指導する姿を見たとき、患者からスタッフへの感謝の言葉をもらったときなど、スタッフの成長を感じる機会はたくさんあるはずです。そんなときは惜しみなく、「早く慣れてくれて助かります」「最近、仕事の幅が広がりましたね」「患者さんが○○さんの笑顔を見て安心するとおっしゃっていましたよ」などと本人にフィードバックすることをお勧めします。

(3)人とつながっているという「関係性」も有効

一人では成し遂げられない課題も、誰かと一緒だから達成できた。こうした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。ご存知のとおり、他者とつながっていることを実感すると、困難な局面を乗り越える苦労が軽減し、一緒に頑張ろうとする連帯感が生じます。

このことは仕事にも当てはまります。例えば、院内のレイアウトを変える必要性が出たとき、患者アンケートを実施するときなど、スタッフへ個々に意見を募るより、複数名でブレーンストーミングしたほうが良いアイデアが生まれることもあります。人の意見を聞くうちに、「そういえば」と名案をひらめくような相乗効果もあるからです。チームプレーの中では、達成感を共有できるばかりか、得意分野を評価されることで「有能感」が得られるのもうれしい効果です。要所で医師も一緒に取り組む姿勢を見せながら、スタッフ間の関係性を大切にした仕事運びができるよう工夫してみましょう。

ただし、この3つの条件は、誰にでもすべて当てはまるわけではありません。自分で選んだ仕事に喜びを見いだす人もいれば、有能感がやる気の原動力になる人、周囲との人間関係があってこそ仕事が楽しくなるという人もいます。やる気スイッチの在りかは人によって異なるのです。だからこそ、日頃から3つの条件を満遍なく満たすよう心がけたいものです。

<執筆者プロフィール>
田中 美香(たなか・みか)
医療ジャーナリスト。出版社でヘルスケア系の書籍・雑誌の編集経験を積み、現在はフリーで活動。日経グループの健康情報サイトでドクターへの取材記事を毎月連載。研修会社で医療スタッフ教育に従事した経験を生かし、人材教育に特化した記事執筆も手がける。ライター業の傍ら、ビジネス文書講師として社会人や大学生への指導も行う。

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