クリニックでの電話クレーム対応のOK・NGポイント《役に立つ!コミュニケーションのコツ》

電話クレーム対応

近い将来、多くの仕事がAIに奪われるといわれています。しかし、患者や医師、スタッフの間でコミュニケーションがゼロになることはありません。医療接遇、スタッフ育成、組織づくりなどさまざまな場面で、むしろコミュニケーションという普遍的な営みを大切にすることこそ、クリニックの未来に向けた付加価値、温かな財産になるのではないでしょうか。

未来のクリニック経営に役立つ情報を独自に研究してお届けする「クリニック未来ラボ」編集部では、そのためのヒントとなるコラムをお届けします。

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相手の顔が見えない電話応対では、対面応対以上にちょっとした誤解から話がこじれやすく、クレームに発展することがあります。そんな事態を未然に防ぐためにできることは何でしょうか? 今回は歯科クリニックでの実例に沿って、日頃からどんなことをスタッフと共有しておけばいいのか考えていきましょう。

患者からの一本の電話が大きなクレームに発展! 問題はどこにあった?

こちらは、実際に歯科クリニックで起きた、患者からの電話が思いがけずクレームに発展してしまった事例です。最初に電話口で対応したのは、3年目のスタッフでした。

~歯科クリニックでの電話応対事例から~

ある日の夕方、通院患者から予約方法に関する問い合わせの電話が入り、3年目のスタッフ(27歳)が対応しました。希望日時になかなか予約が取れないことにいらいらした患者は、「らちが明かないから先生に代わって」とのこと。スタッフは早々に切り上げ、「先生どうしましょう、クレームです!」と、診察を終えていた院長に代わりました。この時、操作ミスで保留になっていなかったため、その言葉を聞いた患者は激怒。院長がお詫びし、「予約方法については決まりなのでご了承ください」と伝えて電話を切りました。しかし翌日、その方は「やはり納得できない」と再び怒りをあらわにし、電話を取った新人スタッフ(22歳)に20分ほど思いの丈をぶつけました。

この事例には、クレームに発展する前に未然に防げたであろうポイントがいくつか存在します。NGポイント・OKポイントを、時系列に見てみましょう。

【NGポイント1】単なる問い合わせをクレームだと思い込み、パニックになる

この事例における患者のニーズは、予約方法に関する説明を聞くことであって、文句をつけることではありませんでした。保留ボタンがうまく押せていなかったのは致命的なミスですが、クレームに発展した原因はそれだけではないと思われます。

クリニックでも一般企業でも、上司がクレームだと聞いて代わってみたら、実はクレームではなく単なる要望レベルだった、ということがよくあります。固定電話に慣れない若いスタッフは、顔も名前もわからない患者からの電話を取ることがただでさえ苦手で、しかもいら立った人とのやりとりはもっと不慣れです。クレームへの恐怖心から動揺が声に出ることもあれば、早く切り上げたいと先走りする気持ちが対応に出て、相手の怒りを買うこともあるでしょう。しかし、もしその電話が善意からの指摘だったとしたら、クレームだと決めつけるのは失礼な話です。

たとえ電話の相手が感情的な口調になったとしても、「クレームが来た!」と思い込んで慌てないことが大切です。相手がいらいらしているときは、こちらは冷静にならなければなりません。あくまで一例ですが、自分なりに落ち着くルールを「こんな時こそ深呼吸」などとメモにして電話に貼っておくなど、個人レベルで対策しておくといいでしょう。

なお、多くの患者は、不快に思うことがあっても、真っ向から医師に物申すことは避ける傾向があります。医師が出てみたらクレームというほどではない様子であっても、スタッフに対しては相当厳しい態度だったのかもしれません。スタッフは最初の防波堤という重責を担っているわけですから、一言ねぎらいの言葉をかけることも忘れないでほしいと思います。

【NGポイント2】相手の気持ちを逆なでする! 「決まりなんです」はタブー言葉

続いて院長の対応です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「決まりです」は極力避けたい言い回しです。院長から具体的に説明を聞けば納得したかもしれないのに、この一言で、「決まりだとわかった上で電話しているのに」といらっとさせた可能性もあります。

そうであれば、差し支えない範囲で何らかの代案を提示し、寄り添う姿勢を見せることが肝要です。大切なのは、相手の要望を否定する言葉から入らないこと。「○○は難しいのですが、△△であれば~」など、他の道を一緒に探るようなトークをしてみてはいかがでしょうか。結果的に要望を否定することになったとしても、一緒に折衷案を探そうとする姿勢を示せば、誠意を伝えることはできます。「納得はできないが、誠意はわかった」と感じてもらえれば、ここで事なきを得ることもあります。

【OKポイント】意外と難しいのが、話の腰を折らず聞き役に徹すること

この事例は翌日まで続くわけですが、最後の電話に出たのは、よりによって若い新人スタッフでした。新人なのにかわいそうに……と思うかもしれません。ところが、実はその新人スタッフが見事に患者の怒りを鎮めてくれました。

単なる指摘も、大きなクレームも、多くの人が求めるのは話をしっかり聞いてもらうことです。院長や先輩スタッフが対応してもうまくいかなかった患者に対し、新人ができるのはただひたすら聞くこと。本事例ではこれが功を奏しました。最後には、時間を取らせたことを詫びる言葉とともに、「納得はいかないけど、昨日の2人と違ってあなたは話をずっと聞いてくれた。それでもういい」と言ったのです。根本的な問題解決に至っていないのに事態が収まることもあるほど、聞くことの効果は絶大なのです。

新人スタッフには特別なスキルがあったわけではなく、経験も積んでいないため聞くしかなかったのでしょう。相手の話に口を挟むような、気の利いた言葉も出てこなかったのかもしれません。1件の電話に20分かかったのがベストな解決法かどうかは議論が残りますが、話を聞いてほしい患者と、話を聞くしかできない新人スタッフの状況がマッチしたのは幸いでした。

電話応対やクレームのテクニックはさまざまあるといわれますが、結局は人と人のやりとりであることを忘れてはなりません。大切なのは、患者の話の腰を折らず、いったん受け止めてから対応を考えること。特別なスキル以上に、初心にかえってただ聞くことがいかに重要か、基本を教えてくれた事例だといっていいでしょう。

<執筆者プロフィール>
田中 美香(たなか・みか)
医療ジャーナリスト。出版社でヘルスケア系の書籍・雑誌の編集経験を積み、現在はフリーで活動。日経グループの健康情報サイトでドクターへの取材記事を毎月連載。研修会社で医療スタッフ教育に従事した経験を生かし、人材教育に特化した記事執筆も手がける。ライター業の傍ら、ビジネス文書講師として社会人や大学生への指導も行う。

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